各種ITインフラの構築で実績のあるNTTデータが、ウェルビーイング実現などに向けた取り組みを始めている。1社や1業界ではできないことも、既存の枠による分断を超え、組織やビジネスがつながることで達成できる。
NTTデータでは、トップダウンによる新規事業開発と各事業部門によるイノベーションとが同時並行で進んでいる。前者を担うのが2020年設立のソーシャルデザイン推進室だ。設立のきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だった。
「コロナ禍に浮彫りとなったのが、データの分断という課題でした。金融取引の電子化を実現する『ANSER』やキャッシュレス決済プラットフォーム『CAFIS』などで国内ITインフラをリードしてきた当社の知見を活かすことで、課題解決に貢献できることがあるのではないかと考えたのです」とNTTデータ執行役員で同室室長の濱口雅史氏は振り返る。
そこで同室では、「モビリティー」「高齢者ウェルビーイング」「女性ウェルビーイング」「サプライチェーン変革」「住まい」「地域創生」の6つの分野に着目し、企業や業界の枠を超えた社会システム全体の設計と実装に向けた取り組みを進めている。
社内でも想定以上に多かった
ビジネスケアラー問題を解く
例えば高齢者のウェルビーイングについては、社会保障費の圧迫や介護人材の不足を背景に、働きながら介護を行ういわゆるビジネスケアラーが社会課題になっている。経済産業省は、2030年には家族介護者の4割がビジネスケアラーとなり、介護離職や介護との両立困難による労働生産性の損失は9.1兆円にも上るという調査結果を公表済みだ。
「社内でもビジネスケアラーについての調査を行ったところ、回答者の約3割がビジネスケアラーかその予備軍であることが分かりました。介護現場のケアマネジャー(介護支援専門員)や有識者へのヒアリング(上写真)も交えて実態を把握することで、ビジネスケアラーが親のウェルビーイングをかなえながら“ケアラーになる前の働き方”を維持できるエコシステムのあり方を構想しています」
具体的には宅配や配食、健康管理、見守り、診察付き添い、移送、外出支援など、介護保険外のサービスをチーム化し、一体となって親の日常生活を支えることで、ビジネスケアラーやその予備軍が安心して仕事に集中できる環境を整える。
「サービスの多くは既存のものです。それら一つひとつを我々の強みである、組織を横断的に連携してチームにする力でエコシステム化することを目指しています」
注力する6つの分野は、同社の既存事業とも無関係ではない。そうした各事業をつなぐ役割も同室は担っている。
「ソーシャルデザイン推進室が目指すものは、既存の事業部門がビジネスを拡大していった先で必ずつながります。複数の事業部門にまたがり、最初から連携するのは難しい領域もあります。推進室が一時的にでも先導役を務めながら、進めていくことが必要と考えています」
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