「再生パソコンマーケットの創出」が、地球と障がい者雇用の未来をひらく──第1回「TMIP Innovation Award」優秀賞:株式会社ポンデテック

財津 和也

財津 和也

株式会社ポンデテック 代表取締役社長

2011年、ITエンジニアとして関西電力入社。エネルギーDX推進のジョイントベンチャー立ち上げに従事し、業務外では2016年にイノベーション活動団体 k-hack を立ち上げ。同団体発でTRAPOL社、ゲキダンイイノ社が事業会社化、2社の0→1での事業化に従事。現在は株式会社ポンデテック代表取締役。障がい者雇用およびCO2削減という社会課題を、経済活動で回していくことに取り組む。

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2023年、イノベーションの創出を支援する産官学のオープンイノベーションプラットフォームTMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)は、設立5年目を迎えました。今後さらにイノベーション創出を後押しするべく、大企業を対象として「社内外の壁を越えて新たな価値・事業創出に取り組んでいる優れた事例」を表彰する制度「TMIP Innovation Award」を新たに創設。

過去5年間(2018〜2022)に立ち上がった新規事業の中から、市場規模や革新性、社会課題の解決に対する姿勢など、さまざまな観点を踏まえ、次の時代を担う大企業発の新規事業を評価します。今回はのべ50件のエントリーが集まり、その中から4つの優秀賞と1つの最優秀賞を決定。2023年11月30日に表彰式を開催しました。

優秀賞に選ばれたのは、使用済みパソコンの買取・再生・販売事業を手掛ける、関西電力グループ発の株式会社ポンデテックです。同社が取り組んでいる社会課題や、パソコンの再生事業を通して切りひらきたい未来について伺いました。

日本を盛り上げるために、「大企業から」新規事業を生み出す

財津さんは大学卒業後、新卒で関西電力にITエンジニアとして入社。5年目を迎えた頃、大企業で働く満足感を覚えつつも新たなチャレンジを模索しはじめたそうです。そして、その気持ちが財津さんを新規事業創出の挑戦へと向かわせることになります。

財津さん「転職や、MBA取得のためにアメリカに渡ることを考えていたのですが、『それが本当に自分のやりたいことなのか?』と悩んでしまって、結局何もできない状態が続いていました。

ちょうどその頃、『イノベーション』というキーワードが流行り始めたこともあって、新規事業に興味を持ちました。そうして、社内でイノベーター人材を育てるサークルを立ち上げたり、コンサルティング企業とDX推進のジョイントベンチャーを立ち上げたりと、さまざまな形で新規事業に携わるようになったのです。

新規事業に取り組む方々とコミュニケーションを取るうちに、自分も事業の立ち上げに挑戦したいと思うようになりました。周囲に声をかけてみたところ、徐々に仲間が増えて、新たなビジネスを立ち上げようとなった経験が、後のポンデテックにつながっていきます」

株式会社ポンデテック 代表取締役社長 財津和也

新規事業を立ち上げることを決意した方の中には、独立を選択する方も少なくありません。なぜ、財津さんは大企業にとどまり、社内ベンチャーという形で新規事業を立ち上げる道を選んだのでしょうか。その理由について、財津さんは「JTC(Japanese Traditional Company)と呼ばれる大企業が息を吹き返さなければ、日本経済全体が良くならないと思っていた」と、当時の想いを語ります。

財津さん「大企業が持つ、社会に対する影響力はとても大きいものです。知名度があるからこそ、何かしらのアクションを起こしたとき、さまざまな人に届きやすい。

たとえば、スタートアップは、若者層や新しいものに感度が高い人々を中心に、社会をより良く変えていく力があると思います。一方で大企業発の社内ベンチャーは、既存の価値観を強く持っている人々や既得権益者などをも巻き込み、より多くの人々に影響を与えられる可能性を秘めていると感じます。

日本経済を盛り上げるためには、スタートアップと大企業がそれぞれの良さを生かしながら、さまざまなアプローチを取っていかなければなりません。独立してチャレンジしている起業家たちのことは心から尊敬していますが、私は大企業発の社内ベンチャーで大企業や日本を変えるチャレンジすることを選びました」

障がいを持った方々と取り組む「パソコンの再生」

現在、ポンデテックが注力しているサービスは、パソコンの「買取」「再生」「販売」で構成されています。仕入れ元の中心は企業です。使用済みとなったパソコンの約3分の2は、分解され、部品として回収されたり、海外へ輸出されたりして、国内で十分に再利用されていないのが現状だと言います。

ポンデテックは、企業内で不要になったパソコンを買い取り、「再生(リファービッシュ)」することによって付加価値を生み出し、それを消費者の方々に直接販売します。そうすることで、単なるリユースの一歩先を行く循環経済のスキームを構築しています。しかし、「初めからこのビジネスモデルを描いていたわけではなかった」と財津さんは振り返ります。

財津さん「企業が保有する遊休資産を活用することで、社会課題を解決できるのではないかという仮説の元、ポンデテックを2019年10月に設立しました。最初の半年間は1~2ヶ月単位で新しいアイデアの検証を繰り返し、手探りで進んでいるような状態でしたね。

合計6つの事業にトライしてみたのですが、どれもお客さまの反応は芳しくなく、売上は思うように伸びなかった。トライアンドエラーを繰り返しながら『これなら』という手応えを感じたのが、パソコンの再生事業でした」

ようやく手応えをつかんだパソコンの再生事業は、関西電力の倉庫の片隅からスタートしたと財津さんは言います。そして、たまたま同じ敷地内で業務を行っていた特例子会社に在籍する方々との会話から、障がい者雇用に着目。現在、パソコンの再生作業の多くは、障がい者の方々を雇用する特例子会社に委託しています。

財津さん「特定子会社の経営者から、コロナ禍で雇用を維持し続けることが困難になっているという話を聞きました。民間企業に雇用されている障がい者の数は、ここ20年間、右肩上がりに増え続けてきたのですが、コロナ禍で業務の絶対量が減少。障がい者の方々を解雇せざるを得なかった企業も少なからずありました。

ポンデテックは社会課題を解決するために立ち上げた会社です。であれば、私たちのパソコンの再生事業を通じて、障がい者雇用を促進し、課題解決に寄与したいと考えるようになりました」

「障がいを持つスタッフのみなさんはさまざまな仕事をされているが、オフィスの清掃業務や事務サポートといった役割を担っているケースが多い」と財津さん。使用済みパソコンの再生業務となると、対応しなければならない機種が多く、覚えなければならない知識も膨大な量になることから、なかなか習熟度が高まらなかったそうです。

財津さん「突破口となったのは、大企業との連携です。大企業の場合、導入にかかる作業コストを抑制するために同じ機種のパソコンを導入しているケースが多いことに気づきました。

大企業から一度に同じ機種のパソコンを大量に買い取らせていただくことができれば、障がい者の方々が対応する機種を絞ることができ、覚えることも少なくて済むのではないかと思ったんです。そうして、大企業からの買い取りに注力することに。結果的にはこれが功を奏し、品質を保ったまま作業効率が大幅に向上しました」

パソコンの再生業務に携わっている方々が持つ障がいは千差万別。作業プロセスを分解・単純化し、一人ひとりに合った作業内容を割り振ることで、担当者の負担を減らしているそうです。

それらの工夫によって、スピーディーかつ正確な作業が可能になり、「ユーザーレビューでも『想像以上に綺麗でした』というお褒めの言葉を多くいただいています」と財津さんは語ります。

大企業が新規事業をスピーディーに生み出すためのユニークなスキーム

パソコン販売に「中古」ではなく、「再生」という概念を持ち込んでいる点にポンデテックのユニークさがあります。そんな同社の出自もまた、ユニークなものだといえるでしょう。

ポンデテックは、大企業における新規事業の創出を目的とした「SSI(Structured Spin-in)投資モデル」によって誕生しました。領域や規模によって、大企業内では推進が難しい事業案を一時的に切り離し、別会社を設立。その会社にVCなどを通して間接投資することによって、スピード感をもって事業を促進し、その発展可能性を見極めます。

関西電力グループのCVCであるK4 Venturesと、Global Catalyst Partners Japanの2号ファンドを介した出資により、ポンデテックは設立。そして、事業が軌道に乗ったタイミングで、再び関西電力がポンデテックの株式買取を実施。2022年4月21日、関西電力はポンデテックの全株を取得しました。

ユニークなスキームで、スピード感を持って立ち上がってきたポンデテック。今後、事業をグロースさせる上で鍵となるのは「『再生』というマーケットを確立すること」だと財津さんは言います。

最新テクノロジーが詰め込まれた「新品」のパソコンは購入時の安心感がある一方、値が張ります。しかし、安い「中古品」は、「目利きする力なしに手を出すと痛い目に遭うのではないか」という漠然とした不安から、購入を控える人も少なくありません。その結果「本当はこんな高価なものは不要だが、安心感を理由に新品を選ぶ」という人が多く存在します。

そんなパソコンの市場に、「新品」でも「中古」でもない、「再生」という市場を生み出すことが、ポンデテックの狙いです。

財津さん「法人の場合、パソコンは新品を購入するか、リース・レンタルをするかという選択になります。以前『中古は利用されますか?』と聞いたところ、『社内ルールになく、検討したことすらない』という返答をいただきました。その理由は、既存の納入事業者がリユース品を提案しない場合が多いことや、リユース品を提供する事業者が非上場の中小企業が多く、法人が求める数を供給できないから。ユーザーに購入ニーズがあっても、簡単に購入できる手段が提供されていないのです。

また、個人での中古品購入に目を向けても、状況は芳しくありません。中古品販売は、どうしても価格競争に陥りやすく、少しでもコストを削減しようとユーザー体験を犠牲にしている会社も少なくないんです。不具合が起きた時に、スムーズな対応がなされず、『中古品は二度と買わない』と考えている方もおられます。

『中古品』として売り出してしまうと、どうしてもこれまでに醸成されネガティブなイメージからは逃れられません。私たちは、ユーザーが中古品に対して不安を感じるポイントを洗い出し、1つずつ潰していきました。具体例を挙げると、再販する全てのパソコンに対して新品SSD(データを記録するためのストレージ)換装などの『再生措置』を施し、新品のメーカー保証と同じ長さの1年保証をつけて販売しています。そういった意味でも、買い取ったものをそのまま販売する『中古品』とは異なりますし、『再生品』として売り出していくことで、新たなマーケットをつくっていく必要があると考えています」

こうした再生の市場が成長することは、CO2の削減にもつながります。これまでの事業展開を通じて、ポンデテックのサービスはCO2削減にも貢献できると、企業からの高い評価につながっています。

財津さん「パソコン1台を再生するのに排出されるCO2の量は、新品のパソコンを生産するのに比べて約1/10で済みます。SDGs達成のために、さまざまな企業がCO2の削減に取り組んでいますよね。

しかし、排出量を抑制することは簡単なことではありません。私たちにパソコンを買い取らせていただければ、企業はそれだけでCO2排出量の削減に貢献することになります。ポンデテックのサービスを利用することを通して、障がい者雇用の促進や環境に配慮した事業推進に取り組めるという点に、大きなメリットを感じていただいています」

「第二のポンデテックを目指せ」と言われるような存在へ

大企業発の社内べンチャーとして、他の企業から参照されるようなモデルケースになりたいという思いから「TMIP Innovation Award」に応募。財津さんは「5年後、10年後に、ポンデテックが大企業発の社内ベンチャーの成功例として、『第二のポンデテックを目指せ』と言われるような存在になれたら嬉しいです」と語ります。

TMIP Innovation Awardでのプレゼンテーションでは、審査員を務めた新規事業家 守屋実さんから「大企業発の新規事業として、これからも発信し続けてほしい」という応援のメッセージが投げかけられました。

守屋さん「新規事業は十中八九うまく行かないと言われる中、大企業は『1分の1』での成功を求めがち。6個のアイデアを試しても周囲に否定されなかったことが素晴らしいと思います。今後も『一生懸命がんばるといいことあるよ』と発信していただけたら嬉しいです」

最後に、大企業で新規事業創出に挑戦したいと思っている人に向けて、メッセージをいただきました。

財津さん「『一歩踏み出して行動しましょう』というアドバイスを耳にすることが多いですが、私はその前に環境を変化させることが大事だと考えています。環境が変化すると行動が変化して、行動が変化するとマインドが変わります。

社内外で面白いことをやっている人に連絡して、ボランティアとして新規事業を手伝ってみたりすることも一つの方法かもしれません。もし自ら手を挙げて環境を変えることにハードルを感じるのであれば、新しいことにチャレンジしている人の集まりに顔を出して、お願いされるような環境に身を置くことも良いと思います。自分ができることを手伝っているうちに、それが当たり前になって、自分でもやってみるかと思えるようになります。

新しいチャレンジには不安や苦労が付きものですが、仲間と共に喜怒哀楽を爆発させる経験ができるなど、とても楽しい部分もあります。本記事を読んでいただいているみなさまは、共に走る同志だと私は思っていますので、是非一緒に社会をもっと面白く変えていければと思います。新しいチャレンジなどで悩んでいる方がいれば、お気軽にポンデテックの財津までご連絡ください」

共創プロジェクト

2024/5/31
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