2023年4月25日、TMIPは2022年度年次報告会を開催しました。アドバイザー5名による座談会、5期目を迎えるTMIPの活動実績の報告や2023年度活動計画の共有、プロジェクト会員の活動紹介など、今年も日頃TMIPに参加いただいている方々が一同に会する機会となりました。
世界に挑む日本発のスタートアップをつくるためには?
冒頭、TMIPアドバイザー5名による座談会を実施。「スタートアップ大国に向けたこれからのオープンイノベーション」をテーマに、スタートアップ市場における日本の現状や課題、今後に期待することなどをディスカッションしました。
■登壇者一覧(アドバイザーの皆さんの詳細なプロフィールはこちら)
・TomyK Ltd. 代表 / 株式会社ACCESS共同創業者 鎌田 富久氏
・東京大学 産学協創推進本部 スタートアップ推進部長 長谷川 克也教授
・経済キャスター 小谷 真生子氏
・日本ベンチャーキャピタル株式会社 シニアパートナー 照沼 大氏
鎌田氏「日本のスタートアップの数は、シリコンバレーや中国に比べると少ないものの、年々増え続けています。スタートアップに対する政府や経済省の支援、VCが投資する金額が大きくなっており、起業するための環境がより整ってきたことが一つの理由ではないでしょうか。
一方で今後の課題になりそうなのは、いかにスタートアップに挑戦する人を増やすかです。特に大企業発の人材やスタートアップが出てくることや、スタートアップと大企業の連携によるイノベーション創出がさらに生まれてくることを期待しています」
長谷川氏「起業の成功に欠かせないのが仲間集めです。リーダーシップがとれる人やテクノロジーに詳しい人、何らかの分野で突き抜けている人など、優秀なメンバーを揃えることが大事だと思っています。
最近では、優秀な人材がますますスタートアップに集まってきていると感じます。その意味でも、たしかに起業のための環境がより整備されてきたと言えるかもしれません。
ただ、日本がスタートアップ大国を目指すにはいくつか課題があると思います。その一つは、イグジットの方法がIPOに偏っていることです。
日本はアメリカと比べて、スタートアップのM&A件数が圧倒的に少ないと言われています。スタートアップにとって、M&Aはその後の事業拡大を見据える上でも、有効な戦略の一つになりうるもの。より多くのスタートアップがM&Aを活かした成長を遂げられれば、国内のスタートアップエコシステムもより発展していくのではないでしょうか」
照沼氏「2023年3月末の世界の株式時価総額は102.4兆ドル。そのうち米国が43.1兆ドルで、42.1%を占めます。一方で、日本は5.7兆ドルの5.6%。中国に次ぐ世界3位の割合です。決して低くはない数字ですが、アメリカの8分の1ほどに止まっている現状です。
日本がこの数字をより伸ばしていくために、国内スタートアップのさらなる成長が鍵を握っていると感じます。たとえば国内で未上場の段階、あるいは上場してまもなくのうちから、国外の市場でも勝負をする企業がもっと増えてきてほしい。それによって、国内スタートアップの成長が底上げされることを期待しています」
小谷氏「みなさんがおっしゃるように、日本におけるスタートアップのM&Aの規模はまだ小さいと思います。ただ最近では、いわゆる国内での事業承継や企業売却ではない形も増えてきているはずです。たとえば、日本の製造業がアメリカの企業に自分たちのビジネスをM&Aしてほしいと直接相談するケースもある。そうした例も含めて、より多様な選択肢が増えつつあると感じます。
とはいえ、世界を見渡すと対シンガポールや中国など他のアジア諸国との協業を望む企業が多く、日本は有力な選択肢としてあげられない場合も少なくありません。どのように世界に売り込んでいくのか、いかに日本の中心である東京をアジアのハブにしていくのかを考えていく必要がありそうです」
ディスカッション終盤には、参加者から「海外スタートアップが日本企業と協業していくためにはどうしたらいいか」と質問が上がりました。
鎌田氏は「まずは日本でいいパートナーを見つけることが大事。日本の企業には閉鎖的な側面もあるので、最初は契約してくれる企業を見つけること自体が難しいかもしれない。反対にどこかの企業と契約できればそれがきっかけとなり、他の企業へ横展開していけるはず」とコメントしました。
鎌田氏の言葉に小谷氏もうなずき、「日本はその会社がどこの企業と契約をしているのか、横並びを見る傾向がある、まずはある程度大手の会社と組むのが、その後のブレイクスルーに繋がるポイントだと思う」と意見を重ねました。
最後に、司会の入山氏は「今後は国内のスタートアップの発展だけではなく、世界中の面白いスタートアップがいかに日本で活躍してもらうのかについても考えていきたい」とコメント。
またこれまでの議論から、「スタートアップがより世界に進出していくためには、大企業とスタートアップが組み、大企業がグローバル化のサポートをしたらいいのではないか。スタートアップと大企業をつなげるコミュニティであるTMIPでは、それを実現させることができる」とTMIPの今後の可能性を語り、座談会を締めくくりました。
2023年度は、より多くの人に活用してもらえるコミュニティへ
続いてTMIP事務局の奥山が、2022年度の活動内容を振り返りました。
2023年2月には大企業とスタートアップの協業機会を生み出すコミュニティ「MiiTS」が発足。奥山は現在スタートアップ会員が30社ほどの同コミュニティについて、「今年度中に100社まで会員を拡大したい」と抱負を口にしました。また「一緒に活動いただける方、VC、CVCの方でお繋ぎいただける方はぜひお声がけいただきたい」と話し、共創やサポートを呼びかけました。
■参考記事
🔵大企業との協業機会を生み出すスタートアップコミュニティ「MiiTS」始動-2023年1月23日(月)~2023年2月28日(火)「MiiTS Startup Exhibition 2023」を開催-
続いて、街を使ったニーズ検証や実証実験を中心に活動する「アーバンラボ」について、振り返りや展望を紹介しました。
奥山「人流データの可視化・シミュレーション分析で、都市のスマート化に向けたまちづくりを行う「GEOTRA」との協業や、クリスマスにメタバースプラットフォーム「cluster」と連携して開催したイベント「Marunouchi Bright Christmas 2022」など、2021年度以上に多くの会員やパートナーを巻き込みながら活動できた一年間でした。
参加企業が増えることで、企業同士のコミュニケーションもさらに活発になってきています。コミュニティとしての盛り上がりに手応えを感じるとともに、2023年度はさらに活性化させていくための連携や協業に力を入れたいと考えています」
■参考記事
🔵三井物産とKDDI、AI・人流分析で都市DXを推進する新会社GEOTRAを設立 ~人流の将来予測が可能なプラットフォーム・分析サービスを提供開始。スマートシティに貢献~
🔵「丸の内いきものランド」開幕!東京丸の内でスマートフォンアプリを用いた市民参加型の生物調査を開始 | TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)
最後は2023年度におけるTMIPの注力活動について話し、紹介を締めくくりました。
奥山「2023年度はこれまで以上に多くの会員の方にコミュニティを活用してもらうべく、4つの注力ポイントを定めています。なかでも、特に力を入れている2つを紹介させてください。
一つ目は、シリコンバレーコミュニティの立ち上げです。昨年度は特別企画として、シリコンバレーにおける知見や最新情報を学ぶためのイベントを開催しました。今年はコミュニティを立ち上げ、より積極的に学びの機会を設けるだけでなく、シリコンバレーとの連携強化も図っていきます。2023年5月にはコミュニティ形成を推進すべく、『シリコンバレー駐在経験者交流会』を開催する予定です。
二つ目は、イノベーションアワードの推進です。TMIPに優れたビジネスや人が集まるように、『NewsPicks』とも連携して、大企業から立ち上がった新規事業を表彰する『イノベーションアワード』の実施を予定しています」
■参考記事
🔵シリコンバレー赴任者が経験を活かす「コミュニティ」を立ち上げ──TMIPシリコンバレーコミュニティ
プロジェクト会員によるTMIPの活用紹介
続いて、「2022年度の活動報告」をテーマにプロジェクト会員であるソニー株式会社の篠田氏と株式会社セールスフォース・ジャパンの増田氏が登壇。オープンイノベーションにおけるTMIPの活用方法について紹介しました。
篠田氏「弊社では新規事業担当の方々が事業を立ち上げる前に、世の中にはどのような悩みがあるのか、その悩みはどんなペインにつながっているのかなどを調査すべく、TMIP会員様にインタビューをさせていただいています。
新規事業のアイデアを思いついた際、『どう思いますか』『実際に使ってみてくれませんか』と壁打ちさせてもらえる企業を見つけるのは簡単ではありません。しかしTMIPには多くの企業が所属している。そのため、すぐに相談させていただける企業も見つかりました。またTMIPランチ会を活用し、様々な会員企業様とネットワーキングをしながら、立ち上げる新規事業のペインについてもヒアリングをさせていただきました。
今後も、新たな製品をつくっていく上で、会員企業様に実際に使っていただきながら、事業における応用や展開などの相談の場としても活用していきたいと思っています」
増田氏「私たちはスタートアップ共創プログラムに参加し、TMIPに所属する2社のスタートアップと半年間かけてディスカッションを実施しました。現在、どちらの企業とも新たなプロジェクトが進んでいます。
2社は代表の熱量が高く、掲げている目標にも共感し、活動を共にすることを決めました。また進めるなかで、弊社の社員だけではなく役員も巻き込みピッチイベントを行いました。そういったプロセスの部分も、プロジェクトを成功させる鍵だったのではないかと思っています。
短期間で集中した議論をできたことで、その後もお互いの目線を共有しながら、うまく進められています。
今後も、TMIPランチ会やイノベーションサークルなどに参加し、会員企業様とのディスカッションの機会づくりを重ねていきたいです」
最後に株式会社先端技術共創機構(ATAC)の川上氏が登壇し、「先端技術の社会実装を加速化するためのATACの取り組み」について発表。TMIP の活動に共感しながら、「日本にある素晴らしい技術をどんどん事業化をしていきたい」と展望を語り、今後のTMIP の活動との連携イベントについても告知いただきました。」
今年で5期目を迎えたTMIP。他社との共創を通じて社会の役に立ちたい、世の中にインパクト与えたいという熱い気持ちを持った方々が多く集まるコミュニティへと、年々成長を続けています。
2023年度も多くのTMIP会員やスタートアップコミュニティMiiTSとともに、社会にイノベーションを創出し続けるプラットフォームとして、様々な活動を展開していきます。プロジェクトを通して多様なパートナーと連携機会を生み、これまで以上に多くの共創機会を生み出すであろうTMIPの活動に、ぜひご期待ください。