2022年11月、TMIPは特別企画として、SRI International(旧Stanford Research Institute)の協力のもと、シリコンバレー赴任者、赴任経験者、イノベーション人材等を繋ぐ日米同時開催イベント『シリコンバレーの最新Tech動向と日本企業によるシリコンバレー活用最前線』を開催しました。
日本企業はシリコンバレーをどのように活用すべきか。多くの大企業はシリコンバレーに赴任者を送り込んでいますが、日本に戻ってきたシリコンバレー赴任経験者は、シリコンバレーとの連携に課題意識を持ちつつも、帰国後はその経験を活かしきれていない、という現状がありました。
本イベントでは、企業の枠を超えて課題の共有・解決を目指すべく、現役赴任者や赴任経験者、シリコンバレーとの協業を行うビジネスパーソン、日米コミュニティの代表などを招待し、シリコンバレーの現状や向き合っている課題、日本企業がシリコンバレーを活用する方法などについて語っていただきました。
「帰国後に経験を活かしきれない」シリコンバレー赴任者の悩みを解決
TMIP会員やパートナーには、シリコンバレー赴任を経験した方が多くいます。「帰国後に経験を活かしたり、モチベーションを維持したりするのが難しい」「できたつながりが途絶えてしまう」。そんな赴任者たちの声を拾い、TMIPは彼らが集まれる「コミュニティ」を企画。そのステップとして、今回日本とシリコンバレー側をつなぐイベントを実施しました。
本イベントでは、日本とシリコンバレーの会場をリアルタイムでつなぎ、各アジェンダに登壇者を招待。シリコンバレーの先端技術や赴任者たちが抱える課題、日本企業のシリコンバレー活用術、日米コミュニティの運営方法などを語っていただきました。
シリコンバレー企業と共創するために
最初の講演では、SRI Internationalの商業部門の事業統括をするPeter Marcotullioさんより、シリコンバレー先端技術の紹介が行われました。SRIが持つ技術シーズを活用した事業開発の具体例や、多くの日本企業との共創事例について、シリコンバレーから最先端の取組みが共有されました。その後は、シリコンバレーに赴任している二人の対談パートへ。登壇したのは、三菱電機オートモーティブ・アメリカ シリコンバレーの菊田 裕之さんと、日本生命保険相互会社の神谷 佳典さんです。
シリコンバレーでモビリティを中心に事業開発を担当しつつ、同社の海外事業を推進するメンバーとのブリッジ役として赴任している菊田さん。シリコンバレーのスタートアップと協業する際の「日本側との連携」について話しました。
菊田さん「赴任者として心がけていることは2つあります。1つは日本側のキャッチャー役(受け手、担当者)をしっかりと決めておくこと。私が所属する部署は企画担当の私と、技術担当の2人のみ。私たちだけではできることは限られるため、連携する日本側のメンバーのなかに『この件に関してはこの人』と決めて、定期的にシリコンバレー側の状況を相談できるようにしています。
もう1つは、予算確保は未来に意識が向いている部門に相談すること。例えば、新しいことをやるために立ち上げた新規部門は、既存部門に比べてより長期視点の意識が強く、時間軸の長い協業案件であっても、予算の検討など話が早く進む傾向があります。逆に、既存部門は短期で成果が求められやすいからこそ、目の前のことに人やお金をかけざるを得ず、すぐに成果が出るか不明瞭な話はなかなか進まない場合が多い。
ただ、成果がなくていいというわけではありません。小さくても何かしらの成果を短期間で作り、日本側へ示せるようにしています。3ヶ月から半年単位で、お互いの意見を確認しながら、進めていっています」
R&Dやスタートアップへの投資を行い、テクノロジーの活用や新規事業創出に取り組む神谷さんは、菊田さんの話を踏まえて「予算確保」について続けました。
神谷さん「予算といっても、あらかじめ想定できるものもあればそうでないものもあります。例えば、実証実験の実施は、いきなり相談してもハードルが高い。予算を統括する部署とは定期的に『取り組む領域と今後の具体的な取組』について相談・報告するようにしています。
日本のビジネス部門との協業については、スタートアップのリストを単に提示するだけで進みません。シリコンバレーで使えると思えるところまで機能検証・活用想定をして提案するようにしてます。動くものを見せることが大事だと思います。
お二人の次に登壇したのはマクニカ・佐藤 篤志さん。同社は、半導体、ICT/サイバーセキュリティをコア事業に、近年は自動運転、製造DX、ヘルスケア、AI/IoTといった新領域に事業展開している。これまで独自の目利きで世界中から最先端テクノロジーを発掘し、社会実装してきたサービス・ソリューション企業です。スタートアップの立ち上げからインテルやブロードコム、エヌビディア、クアルコムといった大手企業のビジネスをグローバルで拡大してきた経験を元に、日本企業のシリコンバレー活用術のヒントを教えてくれました。
佐藤さん「我々がスタートアップと協業する際には、徹底的に相手の立場に立って、ベネフィットを考えます。Win-Winという生ぬるい関係ではなく、運命共同体のような形で、技術、人、組織、ビジネスのコミットをしますが、これを、“Symbiotic Bonds:共生の絆” と呼んでいます。
極端に言えば ”あなたがいなければ私は死んでしまう” という信頼関係を前提としたパートナーシップです。初期顧客の獲得とスモールサクセスの後、多くのトラブルを共有し、スケールアウトを通して得られた市場のインテリジェンスは、必ず共有し、共に成長を目指します。
シリコンバレーに限らず、スタートアップの創業者は、IPOやM&AなどのEXITをした後に、再び起業するケースが多いですが、その際、マクニカとの成功経験を思い出し、再び声が掛かることがあります。”顧客と市場をよく知っていてビジネスにコミットし、苦楽を共にした同士” という評価が次のパートナーシップに繋がります。
私たちは、こうしたビジネスの無形資産のようなものを「共感エコシステム」と呼んでおり、シリコンバレー内でその評判が広がると、入り込みにくいと言われる北米市場のコミュニティにも受け入れられ、最先端テクノロジーが手に入りやすくなり、”また一緒にビジネスをやろう” という好循環につながると考えています。」と話しました。
続いて、シリコンバレーにある米国の民間非営利団体 Japan Society of Northern California (JSNC)の日本事務所代表の渡邊 哲さんが、「日米コミュニティの使い方」と題し、同コミュニティの特徴を紹介しました。
渡邊さん「JSNCは、日米それぞれの文化を知っていただくために運営しています。メンバーには、日本文化に興味のあるアメリカ人や、日本人の駐在員、現地に移住した方などが参加しており、イベントを起点にネットワークを構築しています。
イベントに来ていただくのはもちろん、サンフランシスコ・シリコンバレーにいるメンバーとともにイベントの企画者になっていただければネットワーク参加しやすくもなる。ぜひ気になった方は入会していただけると嬉しいです」
最後は、日本とシリコンバレーを拠点に起業家支援をするITPC (International Technology Partnership Center)代表の潮 尚之さんが登壇。今回のTMIPのように、シリコンバレー赴任者たちが交流する場を定期的に設けている潮さんは、「今後もTMIPとも協力しながら交流の場を作っていきたい」とイベントを締めくくりました。
赴任経験者が交流する「コミュニティ」をつくりたい
イベント後には、登壇者を含め会場に集まった方々との交流会を実施。東京会場では、シリコンバレー赴任者や赴任経験者、企業のなかで事業開発に携わる人材など約50名の参加者たちが、同じような想いやバックグラウンドをもった人と知り合い、ネットワークを広げる機会になりました。
当日まで、予約枠があっという間に埋まり、その後人数を増幅するもすぐに満席。TMIPにとっては海外とつながりを持つはじめてのイベントでしたが、大盛況で幕を閉じました。
TMIPでは、アドバイザー、パートナー、会員企業様と連携したコミュニティ形成のための様々な取り組みを通じて、会員間の交流や知識の共有を図り、イノベーションの実現を目指しています。本イベントを皮切りに、今後もシリコンバレーとのコミュニティ活動を続けていく予定です。コミュニティ活動に関心をお持ちの方はぜひ、TMIP事務局(info@www.tmip.jp)までお問い合わせください。