2022年7月、TMIPは東京都との共催イベント「東京ベイエリアから描く50年・100年先の未来の都市像~官民共創で築く持続可能な未来の東京~」を開催しました。
東京都では昨年4月、東京のベイエリアを舞台に、50年・100年先までを見据えたまちづくりを構想するプロジェクト「東京ベイeSGプロジェクト」を公表しています。本プロジェクトは、感染症や気候変動、エネルギー危機などの課題に向き合い、東京のベイエリアを中心に持続可能な都市を目指すために立ち上がりました。
イベントでは、東京都副知事の宮坂学さんと東京都政策企画局計画調整部東京eSGプロジェクト推進担当課長の山本健一さんが登壇。どのように官民が協力して課題を解決していくのか、50年・100年後に向けて東京都がどのような戦略を立てているのかについて、お話しいただきました。
世界が直面する危機に対して、都市はどう向き合っていくか?
イベント冒頭、東京都副知事の宮坂学さんがマイクを握り、世界の「都市」の現状や「東京ベイeSGプロジェクト」を立ち上げた背景について話しました。
宮坂さん「都市部の人口は、日本だけでなく世界の様々な国で増え続けています。国際連合によると、1950年には都市に住んでいたのは世界人口の約30%でしたが、2018年には55%までに増加したそうです。さらに、2050年には約70%の人が都市部に移動すると言われています。いかにしてこのような人口の拡大に適応しながら、都市の機能を維持していくかを考えなければいけません。」
都市への人口集中が進む中で、2つの課題があると宮坂さんは指摘します。
宮坂さん「1つは感染症の脅威です。都市は人が密集して暮らす場所のため、他の地域と比較して感染症が一気に広がる可能性が高いといえます。
もう1つは気候の変動です。環境庁が公開した、温暖化が進んだ未来を予測した動画「2100年 未来の天気予報」によると、2100年頃に平均気温は最大4.8℃上昇し、埼玉県熊谷市では44.9℃を観測するとも言われています。また台風の瞬間風速は約90m/sに達し、家屋が崩壊するほどの威力になるそうです。
テクノロジーが発展しても、このような都市の環境で人間は快適に生きられるでしょうか。」
加えて、宮坂さんは生物多様性の喪失についても言及しました。地球環境の現状を報告する『Living Planet Report:生きている地球レポート』によると、世界の生物多様性は過去50年で68%失われ、恐竜が絶滅した時代よりも速く喪失が進んでいると言います。
宮坂さん「今後都市に住む人口が増えて市街地が拡大していくと、樹林地も少なくなっていきます。それに伴い、生物多様性も徐々に失われる可能性があり、向き合うべき課題です。
またテクノロジーが進化する中で、ロボットや人工生命体も多くなるでしょう。それらと私たち人間がどう共存し、快適なライフスタイルを作っていくか。これも重要な課題です。」
このような背景から東京都は、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮し、50年後、100年後の時代にポジティブな影響を及ぼし続けることを目指す「東京ベイeSGプロジェクト」を立ち上げました。
このプロジェクトでは、羽田空港敷地面積に匹敵する臨海副都心エリア及び中央防波堤エリアを中心に、自然と経済の豊かさを両立した持続可能な都市を目指していくそうです。
東京ベイeSGプロジェクトの「4つの戦略」
「『自然』と『便利』が融合する持続可能な都市」をコンセプトに掲げる本プロジェクト。宮坂さんは続けて、このコンセプトを実現するための4つの戦略について説明します。
宮坂さん「1つ目は『ゼロエミッションの実現と、水と緑溢れる都市づくり』です。エミッションとは『排出』を意味し、ゼロエミッションは『企業活動や市民生活から排出される廃棄物をリサイクルなどに用いてゼロにすること』を指します。世界に目を向けると、すでにゼロエミッションを掲げ実現に向けて動き出している国がいくつもある中で、ベイエリアではいち早く『当たり前』の状態にすることを目指していきます。
2つ目は『最先端のデジタルテクノロジーの実装』です。その実装の担い手はスタートアップや起業家だけではなく、大企業や大学、行政など、全てのアントレプレナーシップを持つ人々だと考えています。さまざまなセクターと協力しながら、課題を解決していきます。
3つ目は『グリーンファイナンスを活用したプロジェクトの展開』。グリーンファイナンスとは、地球温暖化対策や再生可能エネルギーなどの環境分野に特化した『資金調達方法』です。世界中のグリーンテック企業を集め、『サステナブル』をキーワードにしたプロジェクトを展開していく予定です。
そして最後の4つ目は、『サステナブルな都市・交通のネットワークを実現』です。東京ベイエリアへの交通アクセスについて、整備をしていきたいと考えています。たとえば、東京メトロの地下鉄8号線(有楽町線)の延伸や羽田空港へのアクセス線の導入です。ほかにも、自動運転やマイクロモビリティの導入、空飛ぶクルマの実現など、新たなモビリティの実装に挑戦していきます。」
2030年までに、実装環境として世界から選ばれる東京へ
宮坂さんは続けて、4つの戦略を踏まえた「東京ベイeSGプロジェクト」に対する意気込みや、2030年を見据えた目標について共有しました。
宮坂さん「これまでデジタルを軸に事業展開するスタートアップにとっての主戦場は、ブラウザやアプリケーション上で魅力的なサービスを作ることでした。しかし、アプリで簡単に配車できる『Uber』や空き部屋を貸したい人と借りたい人をマッチングする『Airbnb』などが広がりを見せたことで、今後はより一層『街』が実装対象になると予測されます。
『東京ベイエリアから世界の最先端を取り戻す』を、2030年に向けた最初の目標として掲げています。世界の新たな取り組みを視察するのではなく、世界の人が東京に来てくれるように。そして、起業家をはじめスタートアップの世界で活躍する人々が、実装環境として東京都を選んでくれるように尽力していきます。」
イベント終盤には、東京都政策企画局計画調整部東京eSGプロジェクト推進担当課長・山本健一さんが「先行プロジェクト」の概要や募集要項について紹介しました。
同プロジェクトは、東京ベイエリアの埋立地である「中央防波堤のエリア」を活用し、最先端テクノロジーの社会実装を行うもの。現在、3つのテーマのプロジェクトを担う事業者を9月21日まで募集しているそうです。
1.最先端再生可能エネルギー
2.次世代モビリティ
3.資源循環・環境向上
山本さんはプロジェクトの趣旨に続いて、実際に応募するために必要な条件や応募者にとってのメリットなどを説明しました。
山本さん「今回の先行プロジェクトでは、全部で9件を採択予定です。採択された事業者には事業推進をサポートする事業プロモーターとともに、プロジェクトを進めていただきます。
東京ベイエリアは巨大な実装フィールドです。私たちは様々な関係者と積極的にコミュニケーションをとり、プロジェクトの実装やオープンイノベーションの推進をしていきます」
■「東京ベイeSGプロジェクト」および「先行プロジェクト」の詳細は、以下よりご確認ください。
○「東京ベイeSGプロジェクト」について
https://www.tokyobayesg.metro.tokyo.lg.jp/
○「先行プロジェクト」概要について
https://www.tokyobayesg.metro.tokyo.lg.jp/priorityprojects/
○「先行プロジェクト」公募詳細について
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/public-sector/articles/lg/tokyobayesgproject2022.html
会場では、参加者からの質疑応答や意見交換などで盛り上がりを見せた後、イベントは終了しました。TMIPでは、今後も持続可能で世界から選ばれる都市の実現に向けた様々な企画や取り組みを継続していく予定です。
※【実証実験】ワードクラウド
本イベントでは、三菱地所がピクシーダストテクノロジーズ株式会社と実施している大学発先端技術の社会実装を目的とした実証実験の一環で、ワードクラウドを用いたプレゼンテーションの解析を行いました。宮坂副知事のプレゼンテーションの内容をコンピューターで解析し、キーワードの可視化を行っています。イベントに参加された方には振り返りの機会を、参加できなかった方には講演内容をイメージして頂くきっかけをご提供することを目的としています。
TMIPでは会員企業の実証実験を支援しています。
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