TomyK代表・鎌田 富久氏と本日の登壇者

ポストコロナ時代におけるグローバル社会の変容とスタートアップ投資戦略

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開催日時 2020/7/13 10:00スタート。
モデレーター:TomyK 鎌田氏
登壇者:Sozo Ventures 中村氏
Translink Capital 大谷氏
DNX Ventures 中垣氏
NVCC(日本ベンチャー・キャピタル) 照沼氏
Coral Capital James Riney氏
All Star SaaS Fund 前田氏
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2020年7月13日(月)、「Zoom」のウェビナーを用い、『ポストコロナ時代におけるグローバル社会の変容とスタートアップ投資戦略』と題したTMIPパートナーのVCパネルが開催されました。モデレーターを務めるのは、TomyK代表の鎌田 富久氏。

TomyK代表・鎌田 富久氏と本日の登壇者

TomyK代表・鎌田 富久氏と本日の登壇者

本日のテーマ「ポストコロナ時代におけるグローバル社会の変容とスタートアップ投資戦略」について、日米アジアで活躍されているベンチャーキャピタル(VC)の方々から話をうかがえることを楽しみにしている、と挨拶されるとともに、「こういう時期は投資がしぼみがちだが、だからこそ正しい投資が次の時代をリードする側面もある。ぜひそういったお話を聞けたら」と期待を滲ませました。

VCの活動報告として一番手となったのは、シリコンバレーで活躍中のSozo Ventures General Partnerの中村幸一郎氏。

Sozo Ventures General Partner・中村 幸一郎氏

Sozo Ventures General Partner・中村 幸一郎氏

中村氏:我々は、シリコンバレーのトップベンチャーキャピタルのパフォーマンスを調査し、彼らが投資している先に対して共同投資するという戦略で8年やっています。簡単に言えば、自分たちで案件を探さないファンドになります。鵜飼いのようなシステムですね。

続いては、Translink Capital Co-Founder and Managing Directorの大谷 俊哉氏が登壇。

Translink Capital Co-Founder and Managing Director・大谷 俊哉氏(左)

Translink Capital Co-Founder and Managing Director・大谷 俊哉氏(左)

大谷氏:Translinkはシリコンバレーを拠点として操業したベンチャーキャピタルです。大きな特徴としては、アメリカを本社としながら、東京、ソウル、北京、台北の5拠点で活動しています。メンバーも皆、アジア系企業でCVCの経験を積んできた多国籍集団で、各国語を使えるというだけでなく、それぞれ自国の大手企業の機微を理解しているので、シリコンバレーの企業とアジア企業の橋渡しができるのが特徴です。

続いて、日米で長く投資を行っている、DNX Ventures Managing Directorの中垣徹二郎氏がお話しされました。

DNX Ventures Managing Director・中垣 徹二郎氏(右)

DNX Ventures Managing Director・中垣 徹二郎氏(右)

中垣氏:DNXは2011年の設立当初から、日本とアメリカ両方でアーリーステージのスタートアップに投資をしているVCです。アメリカでの投資先を日本へとつないでいくことを軸としています。

それぞれの事業紹介を経た後は、鎌田氏を司会に4人によるセッションタイム。収束しないコロナに加えて人種差別問題や米中摩擦、トランプ大統領が再選するのかなど、非常に見通しにくい現在において、現地アメリカにいる中村氏と大谷氏はどう捉えられているのか、という質問が鎌田氏から投げかけられました。

4人によるセッションタイム

4人によるセッションタイム

中村氏:経済的な混乱時は、選別の結果、良い会社が市場シェアを早く取っていくので、ポジティブ要素とネガティブ要素が混在していますが、VCは比較的安定したアセットといえます。

米中二国対立となった場合、他の国々がどういうポジションを取るのか、アメリカ経済の影響はどうかといった議論がありますが、人の行き来を制限することによるマイナスは確かにある。ただ、例えばシリコンバレーであれば中国からのエンジニアは減りますが、代わりに東欧からの人々が実際に増えています。世界最大市場のアメリカを、中国以外の国が取りに来る形に変化していくと思われます。中国に対して他の国々が躊躇することはあるので影響は確実にありますが、プラスマイナスが混在していて、意外と米中対立の影響は大きくないんじゃないかと我々は見ています。

大谷氏:私が心配しているのは、過去にアメリカがリーダーシップを取っていた分野が、非常に内向きになっているという点です。何種類かのビザの発行も凍結されているようですし、差別問題に加えてコロナが追い打ちをかけている。シリコンバレーはオープンであることが原動力となり、海外からの流入によって活力が保たれていたのですが、それが現在、危機にさらされていると思っています。アメリカが過去において強さだと思っていた個人主義が、ここにきて弱みになっている。投資家からみると、先行きは非常に不透明ですね。

続いて鎌田氏から、リモートでのやりとりが中心となっている現状において、直接会ったことのないスタートアップに投資ができるのか、という疑問が挙げられた。

鎌田氏から質問中

鎌田氏から質問中

中垣氏:実際に一社、会わずに投資することになりました。かつてはオフラインでの対面からスタートでしたし、今もオンラインからスタートしたとしても最終段階で会うことが多いのですが、今回はコロナだけでなく先方の地理的な事情で会いようがなく、どうしようかと考えていました。

ただ、一緒に投資をしている人たちとの関係性が非常に良く、信頼している方々が彼らをサポートしているという裏付けも取れたんですね。そこで、こういう時期だし、あえてチャレンジしてみようと決定に踏み切りました。もちろん全ての投資をこの手法で決定できるわけではありませんが、条件が揃えばチャレンジとして考えていこうと思っています。

中村氏:シリコンバレーの人たちはプレゼン上手という印象がありますが、実際にはプレゼンで投資を決めるということはほとんどありません。少なくとも私たちは投資に至るまで数年に渡って研究検討をした上で決めているので、現状レベルの期間であれば会えないことが投資するか否かに影響するということはありません。ただ、このリモートワークが2年以上続くとなると、オンラインだけで投資するかどうかをより真剣に考えていく必要は出てくるでしょうね。

大谷氏:コロナの前から追いかけていた案件は投資を決定できましたが、今検討している新規のものが難しいですね。CEOと会ってとか、オフィスに行ってとかで人物像を掴めればいいのですが、「Zoom」だとやはり欠落してしまうものがある。それをどうやって埋めていくかについて、我々は今まさに試行錯誤をしている最中です。

鎌田氏は続いて、今回のイベント参加者には大企業所属の方が多いことに触れ、大企業とスタートアップの協業の秘訣があればお話を、と話題を展開。

協業の秘訣は?

協業の秘訣は?

中垣氏:事業会社もスタートアップも、まだまだやり方が上手じゃない方が多いので、VCとの関係性を作っておくことが今まで以上に大事になる。事業会社とスタートアップ双方の担当者が協業に慣れていないと、初回では自己紹介するだけで終わってしまうことも多いので、できる限り事前に相手方の情報を集めておいて、ネクストステップのイメージや、小さくてもいいから次の提案をする準備をしておけば、ビジネスチャンスはこれまで以上に地域に関係なく作っていける可能性があります。今後については「一度持ち帰ってから」では通用しません。

大谷氏:我々が大事にしているのは、「こういう活動をするんだ」という強い意志があるかどうかという点です。日本企業でよくあるのが、優秀な社員をシリコンバレーに送りこんで来るんですが、その際に「自分たちで考えて良いものを探してこい」という指示が多い。でもそうではなく、本社側できちんと戦略を練って、それに基づいてこういうことをしよう、そのためのスタートアップを探そうという具体的な指示が必要だと思います。目的を明確にしておかないとうまくいかないケースが多い、という気がします。

中村氏:大企業とベンチャーの協業ってそもそも相当ハードルが高くて難しいんです。なんでも言うことを聞いてくれる業者みたいなベンチャーと組んでしまうと、使いやすくはあってもおそらく面白いアイデアは出てこない。こういう業績のある良い会社ですよ、と持ち込まれるケースもありますが、持ち込まれる案件にロクなものはない。そうではなくて、自分たちで自分たちの魅力をきちんと売り込んで、双方納得できる相手をきちんと選ぶ必要があります。

以上で第一部は終了。

続いて第二部

続いて第二部

続く第二部では国内、およびアジアで活躍しているVCの方々が登壇。前半と同様、まずは一人ずつの自己紹介からスタートとなりました。一人目はNVCC(日本ベンチャーキャピタル)執行役員の照沼大氏から。

NVCC(日本ベンチャーキャピタル)執行役員・照沼 大氏

NVCC(日本ベンチャーキャピタル)執行役員・照沼 大氏

照沼氏:私たちは、設立からもうすぐ四半世紀となるVCです。ここ14〜5年の言葉でオープンイノベーションというのがありますが、私たちは設立当初からそうした意識を持ってやってきております。

二人目の登壇者はCoral Capital創業パートナーCEOのジェームズ・ライニー氏。

Coral Capital創業パートナーCEO・ジェームズ・ライニー氏(左)

Coral Capital創業パートナーCEO・ジェームズ・ライニー氏(左)

ライニー氏:ジャパンオンリーのファンドとして、4年間で60社以上に投資しています。また、日本ではあまりなかった「起業家のためのコンテンツ」をウェブメディアで展開したり、毎月スタートアップの面白さを伝える採用系のイベントも開催したりしています。

コロナ以降はオンラインとなってしまいましたが、引き続き行っていく予定です。起業も最初は誰に相談したらいいのかも分からないですから、そうした方たちのためのコミュニティも運営するなど、情報発信に注力しています。

3人目はAll Star SaaS Fund / BEENEXT Managing Partnerの前田 紘典氏がシンガポールから登壇。

All Star SaaS Fund / BEENEXT Managing Partner・前田 紘典氏

All Star SaaS Fund / BEENEXT Managing Partner・前田 紘典氏

前田氏:当初はなんでも投資対象でしたが、2014年にサブスクリプションとデジタルが融合したSAASに特化することになりました。100年以上続く一流のSAAS企業を起業家と一緒に作ることをミッションに、投資と支援をしています。

ここから照沼氏、ライニー氏、前田氏が揃ってのディスカッション。鎌田氏から、コロナが収束するどころか再び感染者が増加している状況下で、リモートワークが定着して未来が早まった印象もあり、コロナの影響とチャンスについてみなさんはどう見ているのか、という質問が投げかけられました。

第二部フルメンバーによるセッション

第二部フルメンバーによるセッション

照沼氏:間違いなく、「リモートワーク時代」に一気に変化しましたね。オフラインに戻るところもあるだろうけど、完全に以前と同じにはもうならない。とはいえ、現時点では三年後、五年後がどうなっているのかを読みきれないというのもあります。

VCの方々と意見交換すると、案外決定的なダメージを受けたところは少なく、恩恵を受けているところもありますね。割と落ち着いている。未来については、過去に学ぶべきだと投資先には言っています。状況が復活する時はスタートアップが先鞭をつけることも過去にいくつも例があるので、今回もそうなって欲しいと願っています。

ライニー氏:狙ったわけじゃないんですが、うちの投資先に観光系や飲食系が少ないので、影響は少ない。むしろテクノロジー業界に追い風が吹いていると感じています。それこそ私たちが積極的にやっているSAASはそうですね。他にもウィズコロナで重要性が高まっている業界は多く、僕らとしては非常にチャンスだと感じています。

前田氏:お客様と話していると、一番優先順位が高いのは事業継続なんですね。そのためには従業員がコミュニケーションを取ったり業務をこなしたり、プロジェクトを進めたりしなければいけない。ということで見ていくと、オンラインで完結、非対面でビジネス推進できるものは強い。緊急事態宣言で一気にオンライン商談が加速しましたけど、こっちの方が効率的だと、宣言解除後も続けているところも多いです。

鎌田氏はオンラインでの働き方が常態化した現状を踏まえ、これからの働き方の変化についても3人に話を伺いました。

ウィズコロナ時代の新しい働き方とは?

ウィズコロナ時代の新しい働き方とは?

照沼氏:リモートから少しずつ戻りつつあり、リアルで会うという行為は必要だと思っています。オフィスに行ってもガラガラで、エレベーターに複数人で乗ることもかなり減りました。だからこそ、お互いが会いやすい場として大手町や丸の内の役割があるのかな、とも思っています。リアルとリモートは混合しながら変化していくでしょうから、リアルの場として、東京駅周辺の重要性は増すと思っています。

前田氏:シンガポールでは国が積極的にテクノロジーを導入して、お店に行っても海に行ってもチェックインチェックアウト、体温チェックも一日何回もするし、ソーシャルディスタンスも徹底しています。そのため感染者が出た場合、経路もすぐに分かるので、見習うところは多いと思っていますね。

ライニー氏:出勤しなくてもいいとか、オフィス要らないとかいう話になりがちですが、そうではなく、新しいオフィスのあり方を考えることが必要だと思っています。交代で出勤して一人で作業するのではなく、コラボレーションが必要なときに出勤するとか。そのためには自分のデスクより会議室の方やイベントスペースの方を多くするとかの進化が必要だと考えています。

また、第二部でも第一部同様、協業の際の大企業側へのアドバイスを鎌田氏が求めると、三者三様の回答が。

回答中

回答中

照沼氏:まだまだコロナで大変ですが、状況が復活していくときは、スモールカンパニーやスタートアップが新潮流に乗ったプロダクト・サービスを作り、それを大企業が採用していくケースが多い。今回もそうなると思い我々はやっています。

ライニー氏:日本の企業はシリコンバレーへの憧れがあるので、どうしても海外ベンチャーと提携したがる傾向があると思うが、今は日本のスタートアップも盛り上がって優秀なところがたくさん出てきているので、国内に目を向けてみるといいと思います。

前田氏:テクノロジーの最先端はシリコンバレーという印象がありますが、意外にそうでもないなと。例えばインドは人口が多いので、かなり精度の高いデータ収集ができたりとか、各国の環境や状況だからこそ成り立つビジネスや技術が生まれてきたりしています。こうしたものと大企業が長年蓄積してきたノウハウやアセット、資産やブランドを組み合わせることで、今までなかった事例を作っていくことができるはずだと、ポジティブに捉えています。

以上で本日の予定時間は終了。質問や意見はTMIP事務局までとアナウンスされ、「Zoom」を利用した今回のイベントは幕を閉じました。

終了

終了

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