TMIPには、会員企業・パートナーが主体となり、社会課題や技術などテーマごとに情報共有や意見交換をする「イノベーションサークル」があります。
2023年7月、TMIPはデロイト トーマツ コンサルティング合同会社と共同で、「ヘルスケア」イノベーションサークル立ち上げのキックオフイベントとして「地域健康医療課題に向かってのイノベーション創出に向けて」を開催しました。
民間企業と数々のイノベーションに取り組むHITO病院や、同院と協業するNTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社アドバンスト・メディアからゲストをお招きし、ヘルスケア領域の現状やビジネス参入の可能性について理解を深めました。
ヘルスケア領域へ参入するのは難しいのか?
少子高齢化や人口減少が進む日本。2065年時点の生産年齢人口(15〜64歳)は2020年と比較すると約60%にまで低下し、総人口は9,000万人を切ると予測されています。そのような状況で医療・ヘルスケア領域は、働き手の確保や医療サービスの維持などの課題に直面しているのです。
一方で、課題解決に向けた動きも見られます。厚生労働省が2015年に発表した、『保険医療2035』もその一つ。2035年までに日本を「健康先進国」にすることを目指し、すべての人が安心して生きるための保健医療システムを構築することが宣言されています。
また、ビジネス分野においてはヘルスケア領域に参入しようとする会社も少なくありません。実際に、2016年には約25兆円だった市場規模が、2025年には約33兆円になると予想されています。しかし、人材の確保やニーズ理解が難しいといった理由から、「ヘルスケア領域への参入は難しい」と二の足を踏む企業も多いのだそう。
一見すると困難に思われるヘルスケア領域への参入。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の波江野 武氏は、「ヘルスケア領域に参入し、事業を成功させるためのポイント」をこう解説します。
波江野氏「技術起点で事業内容を決定しないことが重要です。すでに自社が有している技術ありきで『何をやるか』を決めてしまうと、ピンポイントな課題しか解決できず、企業としての介在価値を発揮しづらくなってしまいます。そのため、顧客・医療従事者目線で課題を洗い出し、その課題を解決し得るサービスを検討することが重要です。
また、自社だけで問題を解決しようとしないことが大切です。私達は座組という言葉を良く用いますが、ヘルスケアの課題は複雑で多くの場合一社だけで問題は解決できないケースが多いです。どういった形で他のプレーヤーと連携していくかが非常に重要になります。
加えて、新たなソリューションを提供する場合には既存のルーティンプロセスへの組み込みを考えることも肝心です。世の中にあるプロセスにうまく巻き込まれることで、持続的なビジネスにもつながりやすいですし、社会へのインパクトも大きくなりやすいのではと考えます。」
ICTの利活用で医療課題に向き合う「HITO病院」
続いて、実際に企業と連携しながら医療課題に向き合う「HITO病院」の事例から、病院と企業の協業について考えていきます。
HITO病院は1976年に設立された石川病院をリニューアルする形で、2013年4月に開業しました。現在は愛媛県四国中央市を中心に拠点を置き、「病と向き合うだけではなく、どう生きるかに向き合う。」をコンセプトに運営しています。
2017年からはICTの利活用することによって、医療の質と業務効率の向上を図る「未来創出HITOプロジェクト」を始動。さまざまなテクノロジーを活用した取り組みは、大きな注目を集めています。
DX推進室に所属する篠原 直樹氏は、導入する機器やプロダクトを選択する際には「常に今ではなくて将来を見据えて考えた」と話しました。
また、同院理事長の石川 賀代氏は、自身の想いと今後の展望をこう語ります。
石川氏「私たちは四国から医療の未来を真剣に考え続けたいと思っています。時代や人々の価値観の移り変わりに合わせて私たち自身が変化し、可能な限り多くの人を支え続けたい。より良い未来をつくるためには、私たちの力だけでは不十分です。共に未来を切り拓くパートナーになっていただく企業様、団体様がいらっしゃったら、ぜひ声をかけてもらえたらと思います。」
HITO病院について理解を深めた後は、実際に協業する企業2社が登壇。それぞれが実践する取り組みから、同院とのコラボレーションの展望が語られました。
まずマイクを握ったのは、NTTコミュニケーションズ株式会社の久保田 真司氏。同社は、院内でのスマートフォン活用や、5Gを活用した遠隔医療の実現に向けた支援を提供しています。2023年7月には、スマートグラスを活用した「未来型看護実現」の実証実験の開始を発表しました。
久保田氏「『未来型看護実現』では、スマートグラスを活用した遠隔での患者様の見守りや、医療現場におけるスムーズなコミュニケーションの確立、在宅医療の質の向上などを目指しています。
今後もHITO病院との協業を通して、医療従事者のみなさまにとってより働きやすい環境づくりや、一人でも多くの患者様に貢献するソリューションをつくっていきたいと考えています。」
続いて、AI音声認識アプリ「AmiVoice®」を開発している株式会社アドバンスト・メディアの梶原 三幸氏が登壇。同社は、医療向けAI音声認識ワークシェアリングサービス「AmiVoice iNote」を通して、医療従事者の入力業務の負担を軽減。院内でのリアルタイムな情報共有を可能にしています。
梶原氏「音声入力サービスには活用できる領域が狭いという課題がありました。アドバイスをいただける施設を探していたところ、HITO病院と出会い、2016年から協業を開始。
現状、取り組みはとてもうまく進んでいると言っていいと思っています。成功のポイントは、『取り組み前に明確な目的を設定したこと』『現場スタッフの協力』『実行のスピード』の3点。今後も密に連携を取りながら、医療現場の負担を少しでも軽減するサポートをしていきたいです。」
民間企業と医療機関の連携でイノベーション創出を
登壇者たちが異口同音に強調したのは、「課題解決に資するイノベーションの創発においては、『現場の理解に基づく、現場との協働を通じたイノベーション』が重要」ということ。つまり、いくら優れた技術やビジネスモデルを持っていたとしても、現場への理解がなければ、“良い”事業はつくれないのです。
実際にイベントに参加した方々も、HITO病院の事例や連携する企業のプレゼンから、事業創出や協業に関するヒントを得た様子でした。
最後に登壇者と参加者のネットワーキングを実施し、無事にイベントは終了。
イノベーションサークルの立ち上げに伴い、今後もヘルスケアをテーマにした勉強会やイベントなどを実施予定です。本テーマだけではなく、TMIPでは様々な社会課題について勉強し、意見を交わす機会を設けています。入会に関心をお持ちの方はぜひ、「入会・お問い合わせ」よりご連絡ください。
また今回のイベントをきっかけに、HITO病院との連携に興味を持った企業様がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください。