【注目】日本経済の中心・丸の内で今起こる「地殻変動」

東京の東海岸にあり、数々の大企業が軒を連ねる伝統的な街――

 丸の内と聞いて、そんなイメージを思い浮かべる人は少なくないだろう。

今も大手企業の本社数は国内最多であり、日本の経済の中心地であることは変わりない。

しかしそれに加えて、丸の内はスタートアップをはじめ、大企業、ベンチャーキャピタル、研究機関などさまざまなプレイヤーが集い、手を取り合う「イノベーティブ」かつ「インクルーシブ」な街へと変化しているのだ。

その最前線を追うべく、同エリアの活性化を担う三菱地所のエリアマネジメント企画部 オープンイノベーション推進室にインタビュー。

変わりゆく丸の内の「今」を捉える。

 

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●INDEX
大規模「フェス」を丸の内で開催
「オフィス特化」から多機能な街へ
80社・60団体が参画するコミュニティ
街で「横のつながり」をつくり出す

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大規模「フェス」を丸の内で開催

2022年10月、NewsPicksは東京・丸の内で大型ビジネスフェスCHANGE to HOPE 20222日間にわたって開催した。

各界の有識者による20以上のセッションのほか、各所でワークショップや交流会・懇親会を実施。

集客規模は、リアルで2100名ほどにのぼり、盛況のなか幕を閉じた。

このイベントを企画段階からサポートしてきたのが、130年以上にわたって丸の内エリアの開発を手掛けるデベロッパー・三菱地所だ。

エリアマネジメント企画部 オープンイノベーション推進室の室長を務める佐野洋志氏は、イベントに協賛した背景をこう語る。

「私たちはかねてより、丸の内をイノベーションが湧き上がってくるような、活気溢れる街にしたいと考えてまちづくりを行ってきました。

その一環として、先進的なビジネスやテクノロジーへの感度が高い方々に支持されるユーザベースとも一緒に取り組みができないかとお話ししていて、今回実現したかたちです」(佐野氏)

大学卒業後、三菱地所株式会社に入社。横浜・みなとみらいの開発、丸の内仲通り・丸ビル等の店舗開発、広報・広告宣伝等に従事。2018年より現職。丸の内エリアのオープンイノベーションフィールド化に向けた施策推進を担務。

 

街の付加価値を上げるには、街に関わる人=関係人口を増やすことが重要。

そして、「CHANGE to HOPE」は、さまざまな人に街との接点を持っていただく機会になったと振り返る。

また、イベントの様子を「街を『面』的に生かしていたのが印象的」と佐野氏。

当日は、東京會舘をはじめとした複数の会場で催しが実施されたほか、目抜き通りである「仲通り」には、フードトラックやNewsPicksのロゴが入ったバルーンが並んだ。

「通常、ビジネスイベントは一つの大きな会場を借りて行われる場合が多いですが、今回は丸の内に所在する複数の会場で実施され、さらに会場と会場をつなぐ空間にもイベントの色が出ていました。

ユニークかつ、この街ならではの特徴が生きていたように感じますね」(佐野氏)

 

「オフィス特化」から多機能な街へ

CHANGE to HOPE」に限らず、丸の内ではさまざまな催しが行われる。

音楽の生演奏にフードフェス、イルミネーション、縁日、綱引き大会など、これらは、丸の内の「大家」である三菱地所が、企画・運営してきたものだ。

こうした取り組みが行われるようになった契機の1つに「丸ビル」の開業がある。

「それまで、丸の内は15時になったら銀行のシャッターが閉まって誰もいなくなるような『オフィス一辺倒』の街でした。

そんな丸の内を、もっと『開かれた』街にしたい――そう考え、2002年に商業施設やホール、イベントスペースなどを備えてオープンしたのが丸ビルです」(佐野氏)

以来、三菱地所は、丸の内に飲食店や服飾店などを誘致したり、四季折々のイベントを開いたりしながら、活気のあるまちづくりに取り組んできた。

インバウンド需要にも応える観光向け機能や、託児所やフィットネスジムといった就労支援機能も導入され、多機能な街としての存在感を放つ。

実際に街を訪れると、平日の日中はもちろん、夜や土日も多くの人でにぎわっていることがわかる。狙い通り、丸の内は「開かれた」街になったのだ。

開業当時(2002年)の丸ビルの様子

 

(左から)現在の新丸ビル、丸ビル。

 

そして、丸ビル開業から20年ほどたった2020年、三菱地所は新たなまちづくりの方針「丸の内 NEXT ステージ」を発表。

コンセプトに「イノベーション創発」を掲げ、企業と人材が集積する丸の内ならではの強みを生かし、都市開発に取り組む姿勢を示した。

佐野氏が管掌するオープンイノベーション推進室は、コンセプトを達成する上での重要な役割を担う。

「丸ビルが開業した2002年に、ビジネス向けインキュベーション施設の運営を開始、その後もビジネス支援コミュニティをつくったり、スタートアップに出資したりして、イノベーションの創出に携わってきました。

そこで培った経験や知見を生かし、オープンイノベーションを切り口に、街の価値を上げることをミッションに発足したのが私たちのチームです」(佐野氏)

 

チームの方針について、「街のソフトな価値づくりを重視している」と佐野氏。

言わずもがな、まちづくりは施設や空間などのハードをつくるだけでは終わらない。

そこに人が集まり、交流が生まれる仕組みであるソフトを伴ってはじめて、場としての機能が確立されるのだ。「CHANGE to HOPE」への協賛も、そうした取り組みの1つだ。

「我々のチームが属する『エリアマネジメント企画部』は、もとは『ソフト事業推進室』といって、街のソフト面の施策を通じた街の価値向上を担ってきました。そして、その役割は今も変わっていません。

“ハードソフト、両輪を回すことで街を活性化したいと考えています」(佐野氏)

 

80社・60団体が参画するコミュニティ

では、具体的にまちづくりでどうイノベーションを創発していくのか。

オープンイノベーション推進室が注力する事業の1つが、2019年に発足したTMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform、ティーミップ)」だ。

産・官・学をつなぐイノベーションコミュニティとしてスタートし、現在は80の企業、60以上の団体が名を連ねる。

活動の目的は「多様なパートナーと連携しながら、社会課題を解決するようなイノベーションを創出すること」だ。

「丸の内には4000を超える企業がいて、これまでは個社が新規事業を模索したコミュニティを主催したり、協業のためのラボをつくったりしていました。

こうしたイノベーションに携わる企業・人々が横につながれるプラットフォームがあれば、個社の活動をさらに加速させることができるだろう、と考えて立ち上げたのがTMIPです。

私たちも、インキュベーション施設の運営などを通じて『知』と『知』の出会いで新たなアイデアが生まれると知っていましたから、そうした場を街に携わる方々にも提供したい、と」(佐野氏)

発足から3年ほどたったTMIPは、現在もさまざまな活動を行っている。

たとえば、NewsPicksでもおなじみの落合陽一氏や、TMIPのアドバイザーでもある経営学者・入山章栄氏、ベンチャーキャピタリストの伊藤穰一氏など有識者を招いたセミナーを実施。

他にも東京大学や早稲田大学などアカデミアとイベントを共催したり、企業同士をつなぐランチコミュニティを運営したりと、多様なプレイヤーを「つなぐ」役割を担っているのだ。

「すでに、新しいビジネスの『種』も生まれています」と話すのは、オープンイノベーション推進室でTMIPの運営を担当する小野田健太氏。

TMIPの発足以降、大企業やスタートアップ、アカデミアなどさまざまなプレイヤーの方々と協業し、これまで20件ほどの実証実験を実施しました。

たとえば、大手メーカーをはじめとした企業と廃プラスチックの回収・製品化に向けた取り組みを進めたり、コンサルティングファームと丸の内で『空飛ぶクルマ』のVR体験を実施したり。実験の内容は多岐にわたります」(小野田氏)

オフィスの営業部門に従事した後、2021年より現職にて大丸有エリアのイノベーション・エコシステム形成に向けて、TMIPの運営や丸の内エリアにおける先端技術の実証実験を企画実施。

 

今でこそ、こうした実績が出ているTMIPだが、はじめから順風満帆だったわけではない。

発足時は丸の内近郊の企業や団体からポジティブな反応が集まり、会員数も増えていたが、翌年にコロナ禍が直撃。

TMIPの運営チームは、コミュニティの存在意義を繰り返し自問自答したという。

「最近はリアルの活動がメインですが、コロナ初期はすべてのイベントがオンライン実施でした。

状況的に仕方がないとはいえ、オンラインでやるなら『丸の内』を軸とする私たちの活動意義って何だっけ?と議論を重ねました」(小野田氏)

リアルな活動が制限される中でも、そもそもの設立目的に立ち返り、できる施策を11つ進めていった。

その結果が、多くの実証実験やパートナーシップなどに表れはじめているのだ。

先出のイベント「CHANGE to HOPE 2022」では、TMIPによるWeb3に関連したセッションも開かれた。

 

街で「横のつながり」をつくり出す

TMIPでは、カーボンニュートラルからWeb3、ペットまでさまざまなテーマを取り扱う。

中でも、特に盛り上がっているテーマの1つが、XR(クロスリアリティ)」だ。

TMIPには『サークル』と呼ばれる特定テーマを議論する集まりが10程度あるのですが、中でも反響が大きいのが、XRです。

月に1回程度、大企業、スタートアップを問わず、20社くらいから人が集まって、勉強会をしたり、会員企業のローンチ前のプロダクトを実際に試したりする会を開いています。

丸の内を使った、具体的な実証実験についての話が出ることもあります」(小野田氏)

プロダクトを提供する企業は、新規事業やXRに詳しいサークルの参加者から生の意見を直接聞ける。参加者サイドも、世に出る前のプロトタイプを試したり、開発秘話を知ったりすることができる。

場合によっては、ちょっとした協業の相談につながることもあり、満足度が高いそうだ。

「街」を舞台に、さまざまなイノベーションの創発に取り組むTIMP

今後の取り組みについて尋ねると、「コミュニティとしての密度、そして人と人の出会いの密度をさらに上げていきたい」とのことだ。

「制限されていたリアルのミートアップやイベントを増やし、まずは会員同士のリレーションをもっと感じられる場にしていきたいです。

やはり人と実際に出会ったり、話をしたりすることで得られる気付きには、変えがたい価値がある。そういう気付きの積み重ねの先に、イノベーションがあるのだと思います」(佐野氏)

直近では、会員同士のつながりを強める施策として、お酒を片手にカジュアルに交流できる「ビアナイト」を始めた。

今後も「顔が見えるコミュニティ」を目指し、さまざまな催しを開いていく予定だ。

TMIPを運営していて感じるのは、『丸の内からイノベーションを生み出していきたいよね』と、参加企業や団体の方が賛同し、本当に積極的に活動してくださること。

デベロッパーという立場上、私たちが街を盛り上げるのは当たり前ですが、こうして街に携わる方々と一緒に同じ目標に向かっていけるのは、ありがたいことだなと感じます。

今後も、街に関わる方々とともに、丸の内をもっとイノベーティブで面白い街にしていきたいですね」(佐野氏)

 

制作:NewsPicks Brand Design
写真:平山諭、小島マサヒロ(イベント写真)、三菱地所提供
デザイン:zukku
編集:高橋智香

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