日本企業はいかにweb3へ向き合っていくべきか?入山章栄と伊藤穰一の対談イベントを実施

インターネットが普及し始めたのは1990年代。「Web1.0」の時代と呼ばれ、コミュニケーションはメールなどテキストが主流でした。2000年代になると、SNSによって誰もが情報発信をできるようになり「Web2.0」の時代に移行していきました。今、ネットワークの世界では「web3」への動きが加速しているといわれます。NFT(非代替性トークン)やメタバース(インターネット上の仮想空間)を利用したサービスが拡大。日本人創業者によるweb3のプロジェクトも増えています。

世界的にも多くの注目を集めている「web3」。すでにさまざまな取り組みが存在する一方で、日本の企業がその業界で活躍することは可能なのだろうか。──こうした疑問を背景に、TMIPは2022年11月、「web3」についてより理解を深めるためのイベント「日本企業はweb3で蘇るのか」を開催しました。

メインセッションでは、早稲田大学ビジネススクール入山章栄教授と、6月に著書『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』を出版し、デジタル庁が設置した「Web3.0研究会」の構成員も務める伊藤穰一さんが対談。

「ブロックチェーンの技術を通じて、世界へ羽ばたく日本のブランドが生まれることを期待している」という伊藤さん。web3の特徴を踏まえ、これから日本企業がどのような取り組みを進めていくべきかをお話しいただきました。

非中央集権型ネットワーク「web3」とは

FacebookやGoogleTwitterなどのサービスが登場し、誰もが情報へのアクセスや発信を容易にできるようになった「Web2.0」の時代。こうしたサービスの普及に伴い、対個人のコミュニケーションがより可能となりました。

同時に、サービスを提供する企業に多くのデータが集まりやすくなる「中央集権型のネットワーク」が構築されたといわれています。大量の個人データを一部企業が持っているために、個人情報の流出やデータの改ざんなどのセキュリティ面のリスクや、プライバシー侵害といった課題も浮かび上がってきました。

一方、次世代のインターネット環境である「web3」の世界では、ブロックチェーンなどのテクノロジーによりWeb2.0の課題を解決。各ユーザー自身で個人のデータを管理できるようになり、情報漏洩のリスクを減らすことで、いわゆる「分散型のネットワーク」の構築を目指しています

イベントでは、まずモニターデロイトの三由優一さんと坂下真規さんが登壇。メインセッションの前に、「web3」の要諦について紹介しました。坂下さんは、「web3」をより理解する上で大切な2つのポイントについて説明しました。

坂下さん「1つは、デジタルデータに需給をもたらし、市場経済を確立したこと。例えば、メタバースの世界で所有する武器や服などのアイテムは、あくまでメタバースのなかでしか価値を持ちません。しかし、web3の仕組みが普及したおかげで、その価値をメタバース外にもより容易に持ち出すことができます」

坂下さん「もう1つは、お金だけでは計れない価値をより定義できるようになったこと。例えば、誰かからプレゼントをもらった際、その背景にある『〇〇さんからもらった』などの事実を別の価値へ変換できるようになりました」

入山章栄と伊藤穰一が語る「web3との向き合い方」

参加者がweb3の基礎知識を得た後、イベントは入山さんと伊藤さんによるメインセッションの時間へ。まずは経済学者でTMIPのアドバイザーも務める入山さんが「経済学からみたweb3」についての考えを述べました。

早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄さん

入山さん「web3の世界を考える上で、『監視』が一つのキーワードになります。ネット上ではお互いの行動を見合うため、適度な緊張関係が生まれます。その関係がお互いの信頼にもつながるのです。社会学では、そのような社会や地域における、人々の信頼関係・結びつきを『ソーシャルキャピタル』と呼びます。

ソーシャルキャピタルの概念自体は、決して新しいものではありません。例えば『ご近所付き合い』や、江戸時代の同業者同士で結成する組合『株仲間』と同じ仕組みです。

これまでは、5人など小規模のつながりを指して『ソーシャルキャピタル』と表現する場合が多くありました。一方で、web3の世界ではより大規模なソーシャルキャピタルが生まれやすくなっています。

そこでは、あらゆる人が信頼関係を構築しながら、プロジェクトベースでさまざまな組織により自由に出入りできるのです。一人ひとりが、自身の関心に合わせて活躍の場所を選びやすくなったことで、次々と面白いチームやプロジェクトが立ち上がり、やがて大きなイノベーションにつながることを期待しています」

入山さんの主張を踏まえて、インターネットの黎明期よりさまざまなサービスを生み出してきたデジタルガレージの共同創業者で取締役の伊藤さんは「web3の課題」について話しました。

デジタルガレージ取締役 伊藤穰一さん

伊藤さん「web3の発展においては、課題がまだまだあります。特に日本社会は『一番価値があるのはお金』と認識している方が多く、もらったトークンを十分に検討しないまま現金化してしまう方も少なくありません。これではweb3の世界は実現へと進んでいかないのです。

そのような課題を解消していくために、私は特定のトークンがないと入れないコミュニティをつくりました。そのトークンは、コミュニティの中で10時間のボランティアを実施した人だけが入手できるものです

例えばボランティアをした際、お礼にお金をもらってもなんだか気が引けてしまうのではないでしょうか。しかし、お礼をトークンにすると、お金に比べてより受け取りやすく感じませんか。感謝の気持ちを、彼らが申し訳なく思わずに還元できるのはいいですよね」

最後に伊藤さんは、今後web3業界へ参入していく日本企業に向けて、この先の展望を語りました。

伊藤さん「日本企業の特徴は、いい意味で『保守的』なところだと思っています。そのおかげで、お金で買えない『信頼』が生まれやすくなっている気がします。

だからこそ、入力されるデータが適切か判断するバリデーターにとっては、日本ブランドはとても信頼できる要素の一つと言えると思うのです。製造業界で世界に羽ばたく日本企業が数多くあるように、金融業界においてもブロックチェーンを通じて、次なる日本ブランドが世界へ進出することを期待しています」

入山さんも伊藤さんの言葉に終始うなずき、「日本企業は慎重さを大事にしながら、それによって生まれる信頼や安心を大切に、web3にかかわる業界へ参入していけばいいと思う」と話しました。

今後もビジネストレンドへの理解を深めていく

対談が終わった後は、参加者同士が意見を交換し合う時間が設けられました。参加者一人ひとりが感じたことや意見をシェアしながら、交流を深めました。

参加者からの質問に答える伊藤さん

会場に約60名の方が足を運び参加した今回のイベント。最後まで登壇者への質問が絶えないことからも、web3への関心が高まり続けている様子が垣間見えました。今後もTMIPでは、時代のトレンドや重要性に合わせたテーマを設定し、ビジネスにつながる知識を深めるためのイベントを開催していきます。

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