ペットとの共生社会実現に向けて、走り出す
──『ペット動物のイノベーション創出』イベント開催

2022年2月、TMIP​​会員同士が連携し、特定テーマにおける課題解決を推進するプロジェクト「イノベーションサークル」を始動しました。すでに複数のサークルが立ち上がり、会員企業やパートナーが主体となった様々な取り組みが生まれています。

今回は、そのうちの1つであるペットイノベーションサークルが「ペット動物のイノベーション創出」をテーマにイベントを開催しました。ペット産業において、先進的な取り組みを進める企業や自治体の代表者を招き、共生都市やペットツーリズムについての事例を紹介。また、日本のペット産業が目指す将来像や創出が期待されるイノベーションについて、考えを深める時間となりました。

ペット需要が高まるなか、増え続ける課題をどう解決するか?

イベント冒頭には、ペットイノベーションサークル発起人であり、戦略コンサルティングファームのモニター デロイトに所属する田中晴基氏が登壇。自身も愛犬家である同氏はまず、国内ペット産業が抱える課題について共有しました。

モニター デロイト 田中晴基氏

田中氏「コロナ禍の影響により、新たにペットを家族として迎える人々が増えたと言われています。ペット需要が高まりを見せる一方で、自宅から一歩外に出れば多くの場所が『ペット不可』であり、『ペットと人が共生する社会』とは呼び難い状況にあります。

ペットと一緒に出かけられる場所が少ないのは、飼い主やペットにとってはもちろん、ペット産業全体にとっても深刻な問題です。購入を検討する人にとっては、ペットと一緒に過ごせる時間が限られてしまうことが要因となり、『飼わない』という決断につながる可能性もあります。また、最悪の場合は飼い主がペットを手放す原因にもなってしまうかもしれません。さまざまな施策を通して、この課題を解いていく必要があります」

今回のイベントでは、田中氏が述べたような課題にいち早く着目し、ペット産業の最前線で試行錯誤を続ける企業や自治体の方々が登壇。4名それぞれが実践する取り組みから、今後の展望までを話しました。

■登壇者名
デロイト トーマツ コンサルティング 道川真帆氏
・株式会社西武ホールディングス 経営企画本部 西武ラボ 部長 田中健司氏
・ペッツオーライ株式会社 CEO 小早川斉氏
・一般社団法人軽井沢観光協会 軽井沢ドッグツーリズム推進プロジェクト 担当理事 西山紀子氏

「ペットとの共生社会」実現に向けた、それぞれの試行錯誤

まずは、デロイト トーマツ コンサルティング道川氏が「ペット共生都市とペットツーリズムの国内の現状と、海外の最新動向」をテーマに、ペットと出かける際の課題について共有しました。

デロイト トーマツ コンサルティング 道川真帆氏

道川氏「課題はペットツーリズムのための環境が整備されておらず、ペットを飼っている人々にとっての行き先候補が少ないことや、それによって外出を諦めてしまっている方が多くいることです。旅行を阻害する要因として『ペットがいること』を挙げる方もいます。また『ペットを飼うと旅行しづらくなってしまう』と考える方も少なくなく、旅行をはじめ他の産業にも影響を与えていることが考えられます」

道川氏は続けて、ペットツーリズム活性化の取り組みとして、2つの海外事例を紹介します。

道川氏「1つ目は『Better Cities for pets』。シェルターとお家、公園、ビジネスの4つの重点分野に基づく12のチェック項目を定め、市や自治体がチェック項目に沿って認証を行う仕組みです。

2つ目は、イタリアのトスカーナ州で現在進行している、アニマルフレンドリーなスマートシティを作る取り組みです。同州で過ごす人々は、ペットを飼うことが人の幸福度向上に寄与するという共通認識を持っています。そのため交通や環境整備などのハード面だけではなく、ペットセラピーなどのソフト面からも積極的にアプローチを行い、ペットと人が共に暮らしやすい街づくりを推進しているそうです」

道川氏は最後に、「家族や友人と旅行するのと同じように、ペットを連れてより多くの場所を訪れることができる世界を実現していきたい」と意気込みを話して締めくくりました。

続いて西武ホールディングスの田中健司氏が登壇し、「ペット同伴の社会的受容性向上の課題整理」をテーマに事例紹介を行いました。具体的には、西武グループが展開する『PET SMILE PROJECT』の取り組みをもとに、ペット同伴の施設における企業や飼い主、ドッグトレーナーにとっての課題と、それらの解決策について紹介しました。

株式会社西武ホールディングス 経営企画本部 西武ラボ 部長 田中健司氏

田中氏「ドッグライセンス制度の運用で、企業は一定のしつけレベルをクリアしているペットを受け入れやすくなります。また飼い主は、一定のしつけレベルに到達すれば、ペットとの行動範囲をより広げられると考えています」

田中氏「加えて、実効性のあるライセンス制度の取得は運転免許書や自動車教習所と同様の扱いとなるため、関心を持つドッグトレーナーの数もますます増えるはずです。これらのメリットを踏まえ、ドッグライセンス制度の運用はペットと飼い主のしつけやマナーレベルを可視化し、『ペット同伴』と社会全体でより受容することにもつながると考えています」

続いて登壇したのは、24時間ペットのお悩み相談サービスを提供するペッツオーライ代表の小早川斉氏。同社は、ペットの「ワクチンや狂犬病の接種状態」「飼い主の知識」「愛犬のしつけ習得レベル」などをデジタルで証明・認証できるアプリ『Wan!Pass(ワンパス)』の実証実験を開始しています。

同氏は「ペットとの同伴行動をアップデートする新しい体験」をテーマに、施設側の現状やペットと人の共生社会実現に向けた想いを話しました。

ペッツオーライ株式会社 CEO 小早川斉氏

小早川氏「ペットの同伴行動を許容する上で、施設側の取り組みは大きく二つのパターンに別れます。一つは喫煙者のケースと同じように、行動できるエリアとそうでないエリアを完全に分離すること。もう一つは、小さな子供連れのケースと同じように、マナーが一定水準にまで達していることを前提に、共通の活動エリアを設けることです」

2つのパターンを提示した上で、同氏は国内の現状について「飼い主が理想とする『ペットとの共生社会』のあり方と、日本の実態が乖離している」と続けます。

小早川氏「街中に目を向けると、ペットが苦手な方やアレルギーを持つ方に対して『来ないでください』と隔離に近い言葉で表現されていることがあります。しかし、飼い主にとってペットは自分の子供と同じようなもの。ペットを家に留守番させるのを心配したり、一緒に旅行に行って同じ体験をさせたいと思ったりするのは当然のことです。

マナーやしつけが指定水準をクリアしたペットの飼い主に対しては、活動できるエリアを拡大するなどの取り組みを通して、『しつけができれば共に過ごせる範囲が広がる』と可能性を提示することが大切だと考えています」

最後に登壇したのは、一般社団法人軽井沢観光協会の西山紀子氏。「ドッグツーリズムによる地域活性〜ペット共生社会の実現に向けて〜」をテーマに、同氏が取り組む「軽井沢ドッグツーリズム推進」プロジェクトや軽井沢町におけるペット産業の展望を話しました。

一般社団法人軽井沢観光協会 軽井沢ドッグツーリズム推進プロジェクト 担当理事 西山紀子氏

西山氏「私たちのプロジェクトスローガンは、『人と犬が健康で楽しく幸せに暮らせる町・軽井沢』です。事業者としても、飼い主としても確かなモラルを持って、安全で優しい地域社会の実現を目指しています。

愛犬と共に快適に暮らせる町をつくるには、社会全体の『共感』がベースになっていなければいけません。そのために私たちは常に、①0%活動②マナー啓発活動③自然環境への配慮の3つの項目を念頭に起きながら、活動をしています。

西山氏「今後は、軽井沢が日本の犬文化向上の先進地域となることを目指し、展開する『軽井沢MAPwithDOG』のブラッシュアップや『Wan!Pass(ワンパス)』とのコラボレーションに力を入れていきます。

また、私たちの活動を未来につなげていくために、軽井沢オリジナルのルールや基準を明文化した『軽井沢ドッグツーリズム憲章』の制定を予定しています。人と犬が健康で、幸せに暮らせるまちを目指して活動を続けていきます」

「続けてほしい」という声を広い、仕組みづくりへ

イベント最後には、ペットイノベーションサークル発起人の一人であり、昭和女子大学現代ビジネス研究所の大賀暁氏がコメント。4名の紹介を振り返り、行政と関連する課題と展望について言及しました。

昭和女子大学現代ビジネス研究所 大賀暁氏

大賀氏「国内の歴史を振り返ると、1990年代からペットと人の共生に向けた取り組みは単発ではいくつも生まれているものの、継続しづらい傾向にあります。行政は『お金を払ってでも取り組んでいきたい』『このサービスを続けてほしい』という市民の声をしっかりと拾い、それらを仕組みにまでつなげていく必要があるのではないでしょうか。

飼い主もそうでない人も、一緒に楽しんだりサービスが利用できたりする社会を実現し、『飼い主 VS 非飼い主』という二項対立ではなく、両者の境界線がなくなっていくことを期待しています」

飼い主はもちろん、企業や行政も含め、それぞれのステークホルダーにとって多様な課題が残るペット産業。その一方で国内外問わず、ペット産業に対して前向きに、熱量を持って取り組む人や企業もまた、数多く存在します。ペットイノベーションサークルもそのうちの一つとして、国内ペット産業の成長はもちろん、ペットと人の共生社会実現に向けて歩みを進めていきます。

TMIPでは「イノベーションサークル」およびその他の取り組みを通じて、今後もさまざまな社会課題について意見を交わし、実際のアクション、ひいてはオープンイノベーションにつなげるための活動を加速させていきます。「イノベーションサークル」の活動に関心をお持ちの方はぜひ、TMIP事務局(info@www.tmip.jp)までお問い合わせください。

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