大企業の事業データを素材に「都市の課題解決」に挑む──CDLEハッカソン2021

大企業にとって、技術力やデータといったIT分野のアセットを活かした新規事業創出は、 更なる成長を考える上で欠かせないテーマの一つです。特にアセットを自社外へと展開し、多様なステークホルダーを巻き込みながら実現するオープンイノベーションには、ますます注目が集まっています。

そうした潮流とも結びつく取り組みとして、「CDLEハッカソン2021」が2021年10月〜12月にわたって開催されました。日本ディープラーニング協会(JDLA)が主催するこのハッカソン(※1)は、G検定・E資格(※2)保有者のみが参加できるイベントです。特徴は企業が事業運営によって得た実際のデータを提供し、参加者はそのデータを活用したソリューションの開発と提案に取り組むという点。資格保有者のスキルアップはもちろん、データを提供した企業の新規事業創出へつなげることも目的とした催しとなっています。

※1 ハッカソン・・・エンジニアやデザイナーが集まってチームとなり、特定のテーマに対して決められた期間でアプリやサービスを開発し、その成果を競うイベント
※2 G検定・E資格・・・ともにJDLAが運営する資格。G検定は「ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有していること」、E資格は「ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有していること」を証明する(JDLA公式サイトより引用)

 

「クエスト」から着想し都市の課題解決へつなげる

今回で3年連続3回目の開催となった「CDLEハッカソン」。今年のテーマは、「都市課題をデジタル・データの活用により解決するサービス・ソリューションの開発」です。参加者は、三菱地所から提供された「丸の内カード」の購買データと、デンソーから提供された「yuriCargo」のユーザーデータの2種類を活用したサービス・ソリューションの開発に挑戦しました。

12月4日に行われた最終審査会では、計6チームがそれぞれの成果についてプレゼンを実施。5名の審査員が「産業・社会的なインパクト、独自性、技術力」の3つの観点から、各チームのアイデアを審査します。各チームが試行錯誤を重ね、想いをこめたアイデアを発表していくにつれて、会場はより熱気に包まれていきました。

最終審査会は3×3 Lab Futureにて行われました


今年度の審査員は務めたのは下記の5名(写真は齊藤氏)
・雨宮かすみ氏|株式会社ディープコア CFO
・齊藤秀氏|株式会社SIGNATE 代表取締役社長CEO /CDO
・南野充則氏|株式会社FiNC Technologies 代表取締役CEO
・森正弥氏|デロイトデジタル 執行役員
・山下隆義氏|中部大学 工学部情報工学科 教授

 

最優秀賞には、ゲームに近い感覚で街の課題解決に貢献できる「マルクエ」を発表したチームが選ばれました。同チームは「新型コロナウイルスの流行を契機に、街へ足を運ぶハードルが上がっている」という仮説に基づき、ゲームのクエストをコンセプトとしたアプリを提案。ユーザーは、自身が発見した街の課題を共有することでインセンティブを受け取ることができ、街にとっても課題の可視化や街を訪れる人の増加が期待できるという仕組みです。発表者は「インセンティブの具体例としては、街で使えるクーポンの受け取りや特定商品の値引き等を想定している」と述べました。

デロイトデジタル執行役員の森正弥氏は「ゲーミフィケーションの要素を活かしユーザーの行動を促すことで、街や都市の課題をいくつも同時に解消する可能性を持ったアイデア。また先の展開を考えたときに、行政や店舗などさまざまなステークホルダーを巻き込んでいく余地も大きい」と、審査員を代表して特に評価した点をコメントしました。

授賞式の終了後には、参加者と審査員、運営メンバーを交えた懇親会も実施。昨年は新型コロナウイルス流行の影響で全日程オンラインでの開催を余儀なくされた「CDLEハッカソン」でしたが、今年はオフラインならではの盛り上がりも取り戻し、イベントは幕を閉じました。

最優秀賞が発表されると、会場では大きな拍手が送られました

コメントを送ったデロイトデジタル執行役員の森正弥氏

 

都市のイノベーションは「個人のイノベーション」が重なって生まれる

最優秀賞に選ばれた「マルクエ」の他にも、店舗ごとに最適な営業時間をレコメンドするLINE botや車椅子の利用者向けに通りづらい道や人の接近を自動で通知するサービス、購買データをもとにビジネスパーソンのマッチング・協働機会の創出を促すサービスなど、多様な切り口かつユニークなソリューションがいくつも提案された今回のイベント。大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアのイノベーション・エコシステム形成を目指し、今回のハッカソンではテーマスポンサーを務めたTMIPにとっても、今後の活動に向けたヒントや学びが詰まった審査会となりました。

TMIPにとって欠かせないキーワードであり、本イベントのテーマでもある「都市」を構成するのは、企業や行政機関といった組織であり、組織も突き詰めれば個人の集まりです。つまり、都市のような大きな単位でのイノベーションを考えるにあたっては、より多くの人がイノベーションについて考えることこそ、肝要と言えるはずです。CDLEハッカソンのような企画やコミュニティが、スキルアップや学習機会の提供に加え、人と人の結びつきを促すことで、個人のイノベーションを後押しする。それが、社会全体におけるイノベーションの推進にもつながっていくのかもしれません。

 

▼最終審査会の模様は、以下のハイライト動画からもご覧いただけます。

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