大学をも巻き込むことで、理想的な協業が実現される──オープンイノベーションを熟知する三者が語る、「Win-Winの関係」を築くためのポイント
※収録動画付き

近年、大企業による社内ベンチャーの立ち上げや、国による研究開発型スタートアップの支援など、新規事業創出に向けたオープンイノベーションの取り組みが加速しています。しかし、組織の規模もカルチャーも異なる複数の企業がパートナーシップを結び、イノベーション創出に挑むことは容易ではないでしょう。ましてや、企業の枠組みを越えて行政、学校法人などと取り組むオープンイノベーションであれば、さらに難易度は上がります。

スタートアップと大企業、あるいは大企業と学校法人が円滑にオープンイノベーションを進めるためには、どんなことが必要なのでしょうか。その要諦を探るべく、2021年11月24日、オープンイノベーションプラットフォーム「TMIP」と、TMIPのパートナーである早稲田大学は「早稲田大学のアントレプレナーシップ・エコシステム~私立大学による産学共創革新~」を共催しました。

この記事では、パネルディスカッション「大企業とベンチャーによるイノベーションの可能性」の内容についてお伝えします。登壇いただいたのは、みずほ銀行 執行理事 リテール・事業法人部門 副部門長の大櫃直人さん、三菱電機 統合デザイン研究所 主席研究員の峯藤健司さん、早稲田大学 創造理工学部・准教授の鬼頭朋見さん。

早稲田大学の喜久里要さんがモデレーターを務め、イノベーションを起こすために重要な、大企業・スタートアップ・大学が協働する機会創出とマッチングのあり方について議論が交わされました。

 

オープンイノベーションの本質とは?

事業を生み出す上で必要な資金・人材などのリソースが充実している大企業。一方で、「合意形成が難しい」「リスクを取りづらい」などの理由から、世の中に打ち出す前に消えゆく事業も少なくありません。
「大企業が新規事業を創出する上で、2つのポイントがあります」と述べるのは、みずほ銀行において将来有望なスタートアップの成長支援のみならず、国内外でオープンイノベーションのサポートにも取り組む大櫃さん。 

大櫃さん「1つ目のポイントは『大企業のジレンマに陥らない』ことです。多くの大企業は市場環境の分析に長けています。しかし、新規事業創造においてはその強みがかえって弊害になることもある。例えば、新規事業は『マーケットが存在しない』『規模が小さい』からこそ参入意義があるはずなのに、『マーケットが小さいから分析できない』『分析した結果、参入するメリットが小さい』という結論になり、なかなか新規事業に踏み出せません。  

2つ目のポイントは『トップをはじめとした組織全体が、腹を括れているか』です。大企業はすぐに結果を求めがちですが、新規事業は結果が出るまでに一定の時間がかかります。トップが『将来を見据えて、新規事業に取り組む必要がある』と理解し、我慢強く取り組まなければ、イノベーション創出につながる新規事業は育ちません」

左上:早稲田大学 喜久里要さん、左下:三菱電機 統合デザイン研究所 峯藤健司さん、右上:みずほ銀行 大櫃直人さん、右下:早稲田大学 鬼頭朋見さん

大櫃さんの話を受けて大企業におけるイノベーション創出のポイントを補足したのは、三菱電機の峯藤さんです。同氏は、2017年からデザイン研究未来イノベーションセンターにて、オープンイノベーションを起点とした新規事業開発・既存事業強化の推進を担当。さらに、ベンチャーファイナンスにも精通し、メンターとして多数のスタートアップのハンズオン支援を行っています。  

峯藤さん「大企業はオペレーションの効率化による事業推進が非常に得意です。一方で『リスクを負って未知の領域に挑む』など、不確実性に対する許容度はまだまだ低い。

さらに、大企業はこれまで高い技術力で戦っていましたが、いわば『自前主義の限界』を迎え、成長が止まっていると感じています。そこでオープンイノベーションを取り入れる大企業が増えていますが、言葉だけが独り歩きして、本来の目的や目標を見失っている場合が多く、本質的な課題解決には結び付いていません」 

 

協業の鍵は、「Win-Winな関係構築」にある

稲田大学でスタートアップを中心とした企業・組織の多様性や、産業ひいては社会全体の持続可能性に関する研究を行う鬼頭さんは「大企業がイノベーションを生み出すためには、スタートアップと手を組むことも有効な一手になる」と話します。

鬼頭さん「スタートアップは、大企業に比べて資金や人材などアセットが少ないからこそ、尖ったサービスを迅速に生み出さなければ生き残れません。他方、既存の組織や事業の枠組みなどに囚われる必要がないことは、新規事業創出においてプラスに働きます。

さらに、ソフトウェアが社会に浸透していく中で、事業開発における資金力の影響は小さくなっていく。ソフトウェアのプロダクト開発は製造業と比較すると、そこまで大きな資金を要さないからです。単独でも新規事業の創出が進めやすい環境が整いつつあるとは言え、アセットの少ないスタートアップにおいて、大企業との協業は有効な選択肢の一つとなります。一方の大企業も、スタートアップと組むことで『自前主義の限界』を突破できるのではないでしょうか。」

一方で、組織の規模も文化も異なる大企業とスタートアップの協働は容易ではありません。モデレーターの喜久里さんも「『大企業に飲み込まれるのではないか』と不安を持つ起業家も多いのではないか」と指摘します。それに対し、大櫃さんは実例を挙げながら大企業とスタートアップがWin-Winな関係を構築するためのヒントを紹介しました。 

大櫃さん「AIソリューションを提供するとある有力スタートアップは、協業先と互いの提供価値や『共にどんなことをやろうとしているのか』を、徹底的に洗い出し書面に書き出しています。

特に、短いスパンで人事異動が行われる大企業と協業すると、担当者が変わるたびに期待値のズレが生じやすくなる。そういったズレを抑止するために、互いの提供価値を明文化しているそうです。スタートアップは大企業に、大企業はスタートアップに何を求め、何を提供するのかを明らかにし、互いに補完し合っている。こういった取り組みの中にWin-Winな関係をつくるヒントがあるのではないでしょうか?」

大櫃さんに同意を寄せる峯藤さんは、大企業がスタートアップに資金を提供することでパートナーシップを結ぶ際の注意点をこう述べます。

峯藤さん「『どんな方法で』投資を実施するか考え抜かなければなりません。大企業がスタートアップに投資し、株式を取得する方法は、大きく分けると『直接投資』と『CVCからの投資』の2つ。前者の場合、株式の保有期限は設けません。つまり、直接投資は長期間にわたる関係を前提とした投資になります。

一方、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル。企業などが自己資本でファンドをつくり、スタートアップに投資をする組織)からの投資の場合、ファンドの運用期間が株式の保有期間となり、投資を受けたスタートアップはその期間内で上場など、イグジットを目指すことになります。

直接投資を実施し、期間を定めないパートナーシップを築くのか。あるいは、短期間のうちにIPOなど、共通の目的を果たすために投資するのか。スタートアップとの協業を模索する大企業の担当者にとって、考慮すべき大事なポイントの一つです」

大企業とスタートアップが協業するにあたって「多様性」という観点も欠かせないと言う     鬼頭さん。最後に、研究者の立場からどのように持続可能なビジネスエコシステムを作り上げるかについて説明し、パネルディスカッションは終了しました。

鬼頭さん「多様性のあるスタートアップが大企業との協業によって個性を失ってしまうのは、社会にとって有益なことではありません。協業する際はお互いの組織やカルチャーの親和性を推し測るだけではなく、スタートアップエコシステム、ひいては社会にどんな影響を与えうるのか考慮する必要もあると考えています。

しかし、一つの会社を預かる経営者がそういった広い視野を獲得するのは、容易なことではありません。だからこそ、多角的に企業のエコシステムを分析する研究者という存在が必要なのだと捉えています。持続可能なエコシステムを実現するためにも、研究者も巻き込んだ協業体制を構築することが求められているのではないでしょうか」

大企業・スタートアップ・大学が一体となってイノベーションを創出している事例は「数多く存在する」とは言えないかもしれません。しかし、それは「三位一体の協業には、まだまだ伸びしろがあること」を示唆します。この三者の協働が進めば、きっと社会に大きなインパクトがもたらされるはず──そんな期待感を抱かずにはいられないイベントとなりました。

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