【イベント開催概要】開催日時:2021/10/8 16:00-18:00
登壇者:郷治友孝氏(UTEC代表取締役社長/マネージングパートナー)
河野英太郎氏(株式会社アイデミー 取締役COO)
施井泰平氏(スタートバーン株式会社 代表取締役CEO)
野上健一氏(株式会社メトセラ 代表取締役CEO)
関口哲平氏(BionicM株式会社 取締役COO)
佐藤雄紀(株式会社obniz 代表取締役CEO)
2021年10月8日、TMIPとTMIP アカデミア・パートナーの東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)によるイベント『UTEC x TMIP 世界に挑む日本発ディープテック・スタートアップピッチ』が開催されました。
TMIP アカデミア・パートナーの「東京大学エッジキャピタルパートナーズ(以下UTEC)」は国内のサイエンス・テクノロジー系ベンチャーキャピタル(VC) の中でも突出した投資実績を誇ります。今回のイベントではUTECの取り組みと同社が支援するスタートアップ5社の創業メンバーにご登壇いただき、最先端のテクノロジー、解決したいグローバルな課題、そして革新的なプロダクト・サービスについてプレゼンいただきました。
UTECの取り組み『東大の「発明届」から事業化へ』
東大には、「発明届」というシステムがあり、特許取得前の、年間500〜600件の発明の「種」の時点からディスカッションし、支援を決める取り組みを2004年から行なっています。ときには合宿もし、人材マッチングやスタッフ募集を手伝うケースもあり、「2014年からすでに120社以上のスタートアップに投資を行い、13社が株式上場をしている」と郷治氏。
研究成果や会社のビジョンを、一緒に汗をかきながら考えつつ、ビジネスプランを作るというスタイルで支援を行う同社。「今回紹介するスタートアップ各社はそれぞれ独自の強みとエッジの効いたテクノロジーを持っており、TMIPご参加の企業にも役立つソリューションを提供できる」と述べ、UTECが支援するスタートアップ5社によるプレゼンが始まりました。
eラーニングを通じてAI/DX人材を育成する「アイデミー」
最初に登壇したのは株式会社アイデミー取締役COOの河野英太郎氏。eラーニングを活用してAI/DX人材の育成を支援する企業で、社名は「AI」+「アカデミー」からの造語です。
近年、企業におけるDXが叫ばれながらも人材不足や、組織の壁などを理由に実際は機能していないケースも多いのが現状です。アイデミーでは、その解消のためにまず自分たちが人材育成支援を行うという理念に基づき、エンジニアのみに限らず、全ての職種の人たちのレベルに合った、DXスキルを学べる140ものコンテンツを提供しており、業界最多レベルとなります。
ユーザー数は間もなく12万人を達成。同サービスは、使い放題のサブスクリプションモデルで、履歴を確認すると、徹底的に学び続ける人も多くいるとのこと。今まで社内で埋もれていた「積極的に学び続ける人材」を発掘し、各社のDX担当に任命するなど、副次的に寄与している側面もあるといいます。加えてアイデミーでは、単にコンテンツの提供だけでなくその後のサポートにも力を入れている、と河野氏は胸を張ります。
「学習者が自身の現場に先端技術を実装するところまで立ち会うことが、私どもの特徴。eラーニングや研修業社の多くはコンテンツを提供するのみですが、我々はそれに加え、学んだ技術の実装まで立ち会うという一気通貫の形でサポートしており、そのカスタマーサクセス体制は非常に強固です」と強調しました。
参加者からの、社内におけるDXの必要性に関する質問に河野氏は、「今まではDXはデジタル系エンジニアの仕事と思われていたものの、今後はあらゆる分野でDXが必要な状況に変化していく」と回答。特に全国にネットワークがある銀行や証券、保険、損保といった職種の方々も含め、あらゆる職種の方々がDXリテラシーを身につけていくべきであり、幅広い層に向けたコンテンツの重要性や可能性を強調し、プレゼンを終えました。
NFTを先取りし、テクノロジーでアート界を支える「スタートバーン」
続いては、スタートバーン株式会社代表取締役CEOの施井泰平氏が登壇。同社は、現在主にアートシーンで広がりを見せているNFTの概念を世界に先駆けてスタートさせた企業です。
自身がアーティスト活動を行う施井氏は、作品が二次流通する際に、二次流通者でなく作品の原作者であるアーティストに還元される仕組みを実現するには、テクノロジーの実装が必要という発想から、同社を2014年に起業しました。
NFTを利用した還元金の仕組みで世界初の特許を取得、現在は物理的にもデジタル的にも作品管理を行っているとのこと。最近では、アートフェア東京で最高額がつけられたモネの作品に適用され、大手サザビーズのオークションや、アンリアレイジと細田守監督の映画コラボのプロジェクトなどにも同社の仕組みが採用されています。
「アートの所持や真贋証明をきちんと保障する仕組みに巨大な市場があるという発想から事業を展開し、ブロックチェーン技術に基づいた、プラットフォームを横断しても利用できるインフラを構築しています。来春にかけて、さらに多くのプロジェクトがローンチ予定で、還元金が二次流通の際にも自動実行される仕組みを実現するプロジェクトも準備中」と、同社サービスのさらなる進化を匂わせました。
アート市場で培った手法はエンターテイメントやスポーツなどにも有効と考え、さらに幅広い分野での展開も視野に入れている様子でした。
参加者からは「アート後進国の日本からこうしたサービスが登場したことを嬉しく思う」との声も。施井氏は、今後なるべく新たに外国人役員にも参画してもらい、社内公用語を英語とするなど世界標準化を本格的に進めていくと抱負を語りました。
心不全医療に革命を起こす「メトセラ」
再生医療ベンチャーの株式会社メトセラからは、代表取締役CEOの野上健一氏が登壇。世界で最も死者数の多い病気である「心不全医療に革命を起こす」をモットーに6年前に創業し、「今年ついに治験開始に漕ぎ着けた」と喜びの報告からプレゼンは始まりました。
同社が特に力を入れているのは、死因としては世界で最も多い「心不全も含めた線維症治療」の領域です。臓器は繰り返しダメージが与えられると、本来持っている治癒力を維持できなくなり、線維症が発症します。これまで線維症を引き起こすとされていた線維芽細胞について、同社は、新生児のマウスではむしろ、線維症を抑制することを発見しました。その後の研究で、成人の心臓線維芽細胞を胎児のような線維芽細胞に変化させる手法を発見し、その細胞の特許を取得しました。
一般的なバイオベンチャーでは一つの特許を基礎として、既存技術と結びつけて水平的な事業展開を目指す中、同社では、製造技術の特許も取得するなど、自社で垂直統合的な事業展開を志向していることが特徴です。
さらに、患者自身の細胞と投与カテーテルを組み合わせた開発中の製品「MTC001」は、免疫の感受性が高く拒否反応が出やすい臓器である心臓において免疫抑制なしの細胞投与を実現しており、安心した治療の提供に近づいていると胸を張ります。
さらに、細胞投与の際には従来、病院内にも細胞を加工する施設が必要だったのに対し、「我々の製品は凍結した状態で出荷して、あとは溶かして打つだけと、複雑なロジスティックスを考えなくても利用できるものとなっています」と、その優位性をアピールしました。「世界で最も死者数の多い病気に対しアプローチしていくことの重要性を胸に、早期の世界展開を実現したいと思っています」と展望を語りました。
患者の目線に立って、負荷を軽減しつつ、医療現場の負担も減らすという、あくまでも現場目線に立った同社の取り組みに注目が集まりました。
人間本来の能力以上を引き出す義足を開発する「BionicM」
BionicM株式会社は、義足を開発しているスタートアップです。登壇したのは取締役COOの関口哲平氏。同社が義足開発を主体とするのは、代表を務める孫小軍氏が9歳の頃に病気が原因で足を切断、15年ほど松葉杖での生活を余儀なくされた末、交換留学で来日した際に初めて使った義足に果てしない自由度を感じたことが発端となります。
現在も世界では30秒に一人が足を失っているのが現状という中、従来の義足では筋力の衰えた高齢者には負担が大きく、義足を諦めて、結局車椅子や寝たきり生活になってしまうケースも多いといいます。これは多くの義足が、骨と関節の機能のみで作られた「受動式」であることに原因があるそうです。パラリンピックなどで、義足も一般的になりつつあるものの、やはり自分ごととして捉えられていない方が大半。そのため、「技術は進んでいるようでもまだまだというのが実情です」と関口氏。
そこでBionicMが開発したのが、ロボティクス技術で失われた筋肉に代わる力を補うパワード義足。これにより、従来の義足であれば一段ずつ階段を昇り降りする必要があったのが、交互に足を出せるようになりました。見た目の動作としては僅かな違いかもしれませんが、これによりストレスは大きく取り除かれます。同社のミッションは「全ての人々のモビリティに力を与える」というものです。「モビリティ」は自分の足で動くという根源的な意味を指し、義足を着用することで、マイナスやゼロの状態から健常者と同じ感覚を取り戻せる状況を提供したい、身体的のみならず精神的にも貢献したいと関口氏は熱く語りました。
「義足は売り切りのモデルが一般的。そこで、弊社では、サブスクリプションや保険商品と組み合わせるなどの方法も考えるだけでなく、さらに身体拡張ツールとして、本来持っている以上の能力すらアシストできるものにまで広げていきたい」と、義足のさらなる可能性を語りました。
デバイスとクラウドでIoTを可能にする「obniz」
最後は、株式会社obniz代表取締役CEOの佐藤雄紀氏。佐藤氏は子ども時代からプログラムを公開、写真加工系のアプリの会社を立ち上げて2000万ダウンロードを記録するなど、開発技術のプロフェッショナル。その彼が立ち上げたobnizが取り組むのは、「誰でもIoTを作れるようにすること」というものです。
アプリの世界では、高校生がちょっとプログラムを勉強して作ったものが一夜にして有名になるということが現実に起こり得ます。しかし、IoTでは各種セキュリティやネットワークのプログラムなど、用意すべきものが多すぎるというハードルが存在するため、そんなことは起こり得ない。そうした状況を打破するために、デバイスとクラウドを提供しているのがobnizのサービス、と解説します。
「その際にフル活用されるのがインターネット。繋げておくことで、例えば明日の天気によってライトのスイッチのオンオフを決めるような知能を簡単にシステムに搭載することが可能です。その仕組みさえ構築できれば人を介さなくても、さまざまな自動化が果たせるようになる」と佐藤氏。しかもこの仕組みなら世界中どこにいても、インターネットと電源にさえ接続できれば機能するものが作れるというわけです。
「プログラムさえ用意してもらえれば、運用もデバイスも簡単に、そして安価にお任せいただけます。それこそ弊社が用意しているデバイスなら、スマートフォンでプログラムを書き、ウェブに連携することもできるので、スペックの高いコンピュータを使った開発環境の構築すら不要。ユーザー様をサポートして新しいサービス立ち上げを支援するとともに、将来的には IoT における Windowsを目指したいと思っています」と展望を語りました。
プレゼン終了後、TMIP事務局から、今後も継続的に各社で話し合い、新たなイノベーションにつなげてほしいとの展望が語られました。さらに会場では、久しぶりのリアルイベントということもあり、参加者同士での挨拶や名刺交換なども活発に行われ、大いに盛り上がりを見せました。
TMIPでは今後も様々なイベントを開催して参ります。
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