カーブアウトを用いた大企業発新事業の成長戦略~京セラと東大IPCが具体事例で考える、新事業独立への道筋~
※収録動画付き

【開催概要】
開催日時:2021/9/7 16:00-17:30
登壇者:
東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC) パートナー CIO 水本尚宏氏
京セラ株式会社 経営推進本部 Sプロジェクト2課 責任者 谷美那子氏
新規事業家 守屋実氏

2021年9月7日、オンラインで「カーブアウト」をテーマにしたTMIPセミナーが開催されました。3月のセミナー「新規事業の創出・成長を加速するカーブアウトの推進」に続き、大企業が新規事業に取り組む際の検討ポイントについて、実例を交えた紹介と議論が展開されました。

登壇したのは、アカデミア系スタートアップへの投資や大企業カーブアウトへの支援実績が豊富な東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)の水本尚宏氏、京セラ株式会社内で新規事業を推進している経営推進本部Startupプロジェクト責任者の谷美那子氏、50件もの新規事業創出や企業に関わり、現在も複数の大手企業のフェローとして活躍する守屋実氏の3人です。

 

OSの変更と目的の明確化がカギ

まず水本氏が「東大IPC AOIファンドのカーブアウト支援」について紹介しました。

東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC) パートナーCIO 水本尚宏氏からの説明

東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC) パートナーCIO 水本尚宏氏からの説明

AOIファンドは企業のイノベーション支援のために2020年に設立され、カーブアウトを投資対象としています。「日本において、ベンチャー投資だけで時価総額が数百兆円の会社を作っていくことは難しい。新事業を創出するには、大手の力を借りる必要がある」と水本氏。ただし、大手には自社に適した組織や文化があって、事業を創出する際には事業に合わせたOSの変更が必須であり、企業という箱を別に作る、つまりカーブアウトが有効と語りました。
カーブアウトで実績のあるPEファンドは多数あり、VAIOやオリンパスのカメラ事業などが有名です。一方で、東大IPCが手がけるカーブアウトは、数億円の売上規模で、未完成の事業かつ成長力が高く、子会社経営陣が主導することが大半であり、カーブアウト後も一定の割合で経営陣が株主となっていることが特徴です。子会社やプロジェクトをベンチャーとして切り出すカーブアウトから、国家インフラ的な大規模なJV型まで実績があります。
最後に「カーブアウトは古くから使われてきた手法」と水本氏は強調し、カーブアウトによってTOYOTAができ、さらにDENSOなど新たなベンチャーが生まれた例を挙げ、「日本の大手企業はカーブアウトで成長してきました。目的を明確にして当事者である子会社経営陣がぶれないことが大切」と述べました。

 

仕組みを変えれば事業を生み出せる

続いて、京セラ谷氏の新規事業推進伴走している新規事業家の守屋氏に登壇いただきました。

新規事業家 守屋実氏からの説明

新規事業家 守屋実氏からの説明

大学の先輩が立ち上げたベンチャーに19歳で参画した守屋氏は、以降30年あまり新規事業一本でキャリアを歩んできました。その経験をもとに、氏が伝えたことは次の3つです。
1つは「大企業は、必ず新規事業を生み出せる」ということ。根拠として「大企業には優秀な人材と豊富な資金、圧倒的な信用とネットワークがあり、スタートアップと比べて相対的には絶対に優位」と断言。さらに「新規事業は1分の1で成功するものではなく、いくつも生んで強いものが生き残るという現実からすると、生き残らないものを飲み込む体力のある大企業が有利」と力を込めました。
ただし、残念ながら「99%同じ間違い方を繰り返している」というのが2つ目です。「大手は本業一本鎗の同質の戦いを続けてきて保身が大事になっている。機能が細分化され、機能さえ外注しているから、即時全体意思判断をすることができない」と言い、新規事業ではそれが足を引っ張ると指摘しました。
では、どうすればいいか。3つ目として「仕組みを変えれば会社は生まれ変わる」と守屋氏。新規事業は本業と違うため、事業・組織・財務計画も違って当たり前であり、「事業の方針が明確で、かつ本業と全く違う判断でいいと上の人が理解していると新規事業が生まれやすい」と説明。「我が社がどんな状況で、何の事業を生み出したいのか、どんな未来を作りたいのかを考えることが大切。事業を切り出す手法はいくつもある中で、カーブアウトはその一つ。目的ではなく手法です」と強調しました。

 

挑戦できる企業風土から生まれた新事業「matoil」(マトイル)

次に京セラの谷氏が、自身が進めている新事業「matoil」(マトイル)について発表されました。

京セラ株式会社 経営推進本部 Sプロジェクト2課 責任者 谷美那子氏からの説明

京セラ株式会社 経営推進本部 Sプロジェクト2課 責任者 谷美那子氏からの説明

谷氏は携帯電話やスマートフォンのUI/UXデザイナーで、2018年に社内で始まった「新規事業アイデア スタートアッププログラム」に応募し、選考通過後はプロジェクト専任で活動しています。
谷氏は同プログラムについて「目標は新規事業の創出ですが、目的は社員からのボトムアップによって、みんなが自由な発想でチャレンジできる企業風土を作ること」と説明しました。
谷氏が手がける事業のテーマは食物アレルギーで、自身に食物アレルギーがあるという実体験がベースとなっています。ターゲットは、普段外食に行きづらい複数アレルゲンのあるお子さんがいる家族です。「食物アレルギーのある家族がいる世帯は、日本全国で13.9%と言われています。外食や中食の利用が少ないため、一般家庭に比べて食費が月平均27,000円少なく、月27,000円が事業のポテンシャルと捉えています」と谷氏。さらに3歳から小学3年生くらいの有症者がいる家庭で、アレルゲンが卵・乳・小麦の10万世帯をコアターゲットとして、まずは誕生日を祝うオーダーメイドのキット販売を来年4月に開始予定です。ニーズの検証結果に基づいて日々のごはんなども展開していくシナリオを描き、さらに「BtoCで高めた顧客解像度を活用してBtoBへと事業展開をできれば」と戦略を語りました。

 

意志・タイミング・物差しが重要

後半は水本氏をモデレーターとして、3人でディスカッションが行われました。

ディスカッションの様子

ディスカッションの様子

「大手の新規事業推進において、陥りやすい過ちは」と参加者から質問された守屋氏は「意志なき起業が第一の大罪であり、薄っぺらい意志で始めるとすぐに折れてしまう。自分ごとで本当にやろうとすると、あらゆるトラブルを乗り越えられるので、意志を持つことが大事」と答えました。また、「会社に収益規模を求められたらどう切り返せばいいか」と問われ、「本業基準で数字を求める人には、本業同等の投資をさせてくれと言えばいい」と話しました。
母体がカーブアウトを認める理由やタイミングに話が及び、「自分がカーブアウトするイメージがまだ湧かない」という谷氏に対して、水本氏は「これから人を雇って大きな投資が必要になったときが検討するタイミングだろう」と応じました。
そのほか、水本氏の「大手がどんどん立ち上げると、失敗したものの撤退が難しいのでは」という疑問に、守屋氏は「年1回大きな関所で玉砕しないように、近くに小さな関所をたくさん設けて、本人たちが撤退も含めて意思決定できるようにすることが大事」と回答。加えて守屋氏は「会社はなぜ新規事業をするのか、どんな基準で選ぶのかという物差しを決めておくことが大事。本業と違うことさえ理解できれば、大手企業は絶対に新規事業を生み出せる」と強調しました。最後に水本氏が「カーブアウトは単なる手法で、目的があればハマる可能性があるので、一つの選択肢として検討してほしい」と呼びかけました。

 

今まさに新規事業に取り組んでいる谷氏のリアルな声と共に、事業創出や支援の実績豊富な水本氏と守屋氏から数々の具体的なアドバイスを聞くことができて、事業開発とその先にあるカーブアウトに関する理解が深まるセミナーとなりました。

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