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開催日時 2020/12/3 17:00スタート。
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2020年12月3日に、オンラインにてTMIPワーキングが開催されました。今回のテーマは「東工大とロンドン芸術大学CSMが提案するイノベーション創出の新手法」。
まずは、東京工業大学の野原佳代子氏(翻訳学、サイエンス&アート)から、「ハイブリッドプロセス思考の提案」をテーマにお話しいただきました。
野原氏:私たちが提案する「ハイブリッドプロセス」とは、物事を科学的・アート的な思考やスキルなどを使って翻訳することで、読み替え・言い換えをし、新発想を見つけ出すこと。
もともと私は言語学、特に日本語で「翻訳学」と呼ぶ「トランスレーション・スタディーズ」を専門に勉強してきました。さまざまな研究施設で学び仕事をした後に東工大で出会ったのは、サイエンスコミュニケーション、科学とアートといった分野。文系出身の私は、科学技術とアートという異分野を“翻訳”でつなぐことで、新しいものを生み出そうと考えました。これこそが「ハイブリッドプロセス」の起点です。
私たちが考える“翻訳”は、当たり前とされてきた物事の価値を見直すこと。そこで必要なのが発想の転換で、これこそが「ハイブリッドプロセス」のカギとなるわけです。
そう考えた私たちは、東工大のWRHI(世界トップクラスの研究者の異分野交流を促進する枠組み)において「STADHI」というサテライトラボをつくりました。
ここでは科学技術の専門集団である東工大と、世界最高峰のクリエイティブ専門集団である美術大学“ロンドン芸術大学CSM(セントラル・セント・マーティンズ)”がタッグを組み、互いを翻訳、分解、解釈、再構築。既存の視点や分野の慣習を超えることで、新しいコンセプトや問いを生み出し、イノベーティブな未来の着想を得ることを目指しています。
続いて、ロンドン芸大CSM トゥーッカ・トイボネン氏が登場し、「組織にとってハイブリッドな創造性のマネジメントが難しいのはなぜか」というテーマについて話しました。
トイボネン氏:ハイブリッドな創造性を推進する上で重要なのは、組織の構造と、文化とプロセスです。日本では特に、以下の3つのチャレンジがカギになります。
まず1つ目は、ハイブリッドな創造性を生み出すのに必要な「空間」について。ビジネスの空間で考えると、社会やアートへの距離があってお互いに交流がありません。これでは深いイノベーションや新しい発想が生まれにくい。ビジネス、アート、社会、この3つの融合した空間づくりが、ハイブリットな創造を生み出すことに繋がると考えています。
2つ目は、ハイブリッド空間を展開し、維持していくこと。そのために重要なのがリーダーシップと文化形成です。組織内でビジネス、アート、社会といったそれぞれの分野の思想を尊重しながら話し合い、新しい発想を作る重要性を見出していくことが大切です。そこでリーダー自らが文化を形成する人になり、周りを牽引していかなければいけません。
そして、3つ目。ハイブリッドな創造性を生み出すには、分野が違うために生まれる誤解や衝突を乗り越えること。多様性を創造性や価値に変えていくことが必要になります。
続いて、ロンドン芸大CSMヘザー・バーネット氏からは「アート&サイエンスから見る創造性」をテーマに話がありました。
バーネット氏:芸術と科学のクリエイティビティ研究において、特に力を入れているのが「人間」と「粘菌」。この2つの知的生命体のコラボレーションがカギとなります。
「粘菌」は細胞膜で構成され、数百万もの核の集合体として機能しています。
粘菌には感覚器官も中枢神経系も脳もありませんが、細胞手段をはるかに超えたタスクを実行することができます。迷路を読み解き、効率的なネットワークを形成できます。また空間的・時間的メモリがあるので、環境をナビゲートして出来事を予測することができるのです。
人は何かアクションを起こす際、まず目から情報を入れそれが脳に伝わり、全体に伝達されていきます。社会の大抵の仕事は共同作業ですから、他者との連携が必須。ともに作業する人との会話によって沢山のことが得られ、それが良い成果につながっていく……この流れは粘菌の働きと似ています。この一連のアクションをより明らかにするのに、粘菌が役立つのではないかと考えています。
続いて、東工大の原教授が「最先端ナノテクからの提言」について話しました。
原氏:まず「ナノテクノロジー」について。2000年にアメリカの元クリントン大統領がナノテクノロジーで何ができるかを、カリフォルニア工科大学の例を使って伝えた有名な話があります。
ナノテクノロジーは原子や分子レベルのスケールにおけるテクノロジーのこと。有害物質を取り除いたり、情報処理能力をあげたりと、21世紀はナノテクノロジーが社会に貢献するだろうと考えられていました。しかし最近では、ナノテクノロジーにも限界があるとされています。
そんな中、科学技術の分野で取り入れ始めたのが、これまでNGとされていた生き物の分野。研究の結果、自然界や生き物の揺らぎやノイズを使うと、問題を解決できるケースが見つかりました。今の科学技術に必要なのは、当たり前を問い直し、新しい問いを生む思想。予測不能なアート思考こそが、ハイブリットな創造につながると考えられています。
最後に、「ハイブリッドプロセス ワークショップ ~ゆらぎの体験~」を参加者全員で行い、終了後には様々な意見が参加者から飛び交いました。
参加者A:「ハイブリッドスペース」というお話がありました。オンラインスペースが増えている中で、オンラインでいかにディスカッションができるか、活性化できるかが難しいと捉えています。今後はオンラインの中でどう活性化していけば良いかを考えていきます。
参加者B:共同作業におけるインタラクション(相互作用)が苦手だと感じている人が、今日の体験を通して克服のコツをつかんだように思えました。組織には様々な人がいるので、イノベーションマネージャーという立場に立って関係者たちをインタラクションさせることが大切です。
最後に本日の内容を受けて、各社連携しての議論を進めることを期待したいという事務局からのコメントと、今後の展望がアナウンスされ、「TMIPワーキング:ハイブリッドプロセス思考の提案」は終了となりました。