【TMIPワーキング】コロナ禍におけるオープンイノベーション

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開催日時 2020/6/24 17:00スタート。

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6月24日(水)、25日(木)の2日間、「After&Withコロナ時代」をテーマに、TMIP会員によるリモート会議が「Zoom」を用いて行われ、新型コロナウイルス収束後の社会・行動様式の変化、イノベーション機会などについて話し合われました。

TMIPは「Tokyo Marunouchi Innovation Platform」の略称。大手町・丸の内・有楽町のイノベーション・エコシステム形成に向けて、大企業とスタートアップ・官・学が連携して社会課題を解決し、イノベーションの創出を支援するプラットフォームを指します。

今回は、624日(水)に実施された1日目の第一部の様子をレポート。この日は、TMIPのアドバイザーである早稲田大学の入山章栄教授やYeLL取締役の篠田真貴子氏、TMIPチェアマンの後藤泰隆氏をゲストに迎え、「ポストコロナにおけるイノベーション」について、トークセッションが行われました。

登壇者の紹介

最初のトークテーマは、「なぜ今までの企業は変化できなかったのか」。まず、入山氏が「コロナ禍においても企業は変化できない」というテーマで解説しました。

入山氏:日本の企業がコロナ禍の影響を受けても変化できない理由は、企業に根付く経営形態に問題があるからです。言い換えれば「経路依存性」。会社や社会というのはさまざまな要素が絡み合って成り立っているので、一つだけ変えようと思ってもなかなか変わりにくいのが実情です。

さらに入山氏は、「ダイバーシティ経営」を例に挙げて説明を続けます。

入山氏:コロナ禍の前から言われていたことですが、多くの企業において女性管理職の数は少なく、割合でいうと3%以下という状態がいまだに続いています。なぜかというと新卒一括採用を止めていないから。多様な人材を採用するのであれば、中途の人材を多く採らなければなりません。ということは、「年功序列」や「終身雇用」を前提としたメンバーシップ型雇用を止めなければいけなくなります。それが多くの企業にとって難しい。

この意見に篠田氏は追加します。

篠田氏:私の社会人のスタートは国内の長期信用銀行。いわゆる昔からある日本企業から始まり、外資系企業を経由して今はベンチャー企業に勤めています。実は日系、ヨーロッパ系、アメリカ系関わらず、大企業では、「個」ではなく「○○部の□□」という“役割の鎧”を着て、その通りに演じることが「良い組織人」「良いビジネスパーソン」であるとされています。

しかし、彼らがイノベーションに向かうときはまったく逆の姿勢を問われる傾向にある。私は入山さんの話を聞いて、企業という組織の中で活躍する人であればあるほど、この乖離を飛び越えることは難しいだろうなと思いました。

後藤氏もこれに続き、「コロナに潜む可能性」とコロナ禍によって顕著となった「オンラインとリアルのコミュニケーション」について自身の考えを解説しました。

後藤氏:私は三菱地所に勤務しており、「街の意味」について考える機会が多いのですが、街中での「Face to Face」と、オンラインでのコミュニケーションではやはり違いがあると感じています。相手の目を見て自分の言いたいことをしっかり伝えるというリアルな場でしかできないコミュニケ―ションというものが存在しており、これが信頼につながると思っています。

コロナ後は、この“リアルなコミュニケーション”が重要な意味を持ってくる。また、今回のコロナ禍においては「新しいことを考える」あるいは「会社が実力を試されている」というスタンスに立つと、チャンスが得られるような気もします。

続いて、話題は「変わらないものの本質」へ。リアルな場で人が会うことの意味合いはどのように変化していくか、また、デジタルがどこまでコミュニケーションを席巻していくかについて話し合われました。

篠田氏:人が会うことの本質的な意味合いはこれからも変わらないと思います。今後、さらに技術が発達し、デジタルツールが今よりも使われるようになることで、よりリアルに会うことの意味が明らかになっていく。今までは選択肢が少なかったから「なぜ会うのか」と考える必要もなかったわけですし…

後藤氏:まったくその通りだと思います。多くあるツールを使い分ける中で、「Face to Face」でのコミュニケーションの役割は、ピュアに特化していくのではないでしょうか。

入山氏:肉体的接触という意味合いにおいて、リアルな価値は大きい。いま、さまざまな技術が生み出され発達したことにより、だんだんと五感がデジタルに奪われてきていて、すでに視覚と聴覚は奪われてきている。しかし、味覚、触覚、嗅覚はまだ奪われていない。

恋愛を例に挙げるとすると、基本的にはリアルでないと恋愛はできません。最近は、特に若い人たちのなかにはバーチャル上で付き合うカップルも見られますが、やはり接触のない恋愛はありえない。今後は、人間の根源みたいなものを考えていく必要があるのではないでしょうか。

篠田氏:人の接触に加えて、私たちは自然・都市環境を含む「環境」からものすごく影響を受けていると思います。そして、いま、リモートワークが進んでいることによって場所の制限がなくなってきている。すると「都市に住む必要がない」という選択肢が生まれ、その選択に大きな魅力を感じる人も増えているはず。子どもを自然豊かな場所で育てたいと考える人も多い。

後藤氏:その場所に行かなければ体感できないことはやはり多い。“空気感”がまさにそれですが、例えば、いくらVRでミュージシャンのパフォーマンスが“体感”できても、ライブ会場の一体感が感じられる場所に行きたい想いはなくならない。スポーツ観戦でもスタジアムに行って応援したい感情は絶対的に残るでしょう。聖地巡礼やドラマのロケ地巡りも同じで、実際にその場所へ行って身を置いてみたいという想いはリアルの価値における大きなキーワードになると思います。

このように「“リアル”における価値」をキーワードに、トークは盛り上がりを見せていきました。さらに議論は展開していき、「組織において対面とオンラインのチームビルディングはどう変化していくか」をテーマにさまざまな意見が飛び交いました。

篠田氏:「Zoom」がコミュニケーションのツールの一つであるように、オフィス空間もその一つ。社会人になったばかりの人がいきなりチームに入ることは難しいということは誰でも分かることだと思いますが、まずは職場での所作やチーム全体が認識している暗黙の了解のようなものを知っていくことで徐々にチームに溶け込んでいける。つまり、オフィスという場所におけるコミュニケーションの在り方から我々は学んできている。

入山氏:そうした意味では、リモートワークにおける新人研修は企業の悩みどころかもしれません。何年も在籍している人は会社のコンテクストが分かっているからリモートワークが問題なくできますけど、新入社員についてどうすればよいかは多くの企業が困っているように思えます。

後藤氏:オフィス空間だからこそできることとして、先輩が後輩のことを褒めたり、後輩が電話対応で困っているときに周囲がサポートしたりできますよね。上司が部下に怒っていたら、上司がいなくなった後に「気にすることないよ」ってフォローもできる。こういったことはリアルだとやりやすいですが、オンラインとなると、そういったシチュエーションの時に当事者以外には、ほとんど見えにくくなる。

篠田氏:そのような対応がリアルな場でできない代わりに、オンライン上でどういったサポートができるか、今一度考える必要があります。

このように、リモートワークを導入する企業が増えている中で、オンライン会話によるデメリットについても話し合われました。また、後半パートではTMIP会員とのディスカッションを実施。さまざまな質問が飛び交うなかで印象的な内容もいくつかありました。

「意思決定の会議の場などで役職が高い人に忖度する人こそが出世するような風潮がこれまであったかと思いますが、オンライン上では互いの顔色が見えにくいこともあるため、コンピテンシーの在り方は変わりますか?」

この質問に対し、入山氏と篠田氏が回答しました。

回答する入山氏

入山氏:本質を求めたい意思決定をする場では、むしろ互いの顔を隠した方がいいのではないかと思います。

篠田氏:私たちが普段感じ取るボディランゲージの忖度がバイアスにもなり得るし、意図的に操作することもできてしまう。一方、声には素の感情が出るのでバイアスがかかりにくい。そこで、声だけでコミュニケーションしたいとなった場合、リアルな対面ではそうはいかない。時と場合によってうまく使い分けられるようになるといいですね。

また、ディスカッションではこのような意見も出ました。

参加者A:デジタルでのコミュニケーション・街づくりを考えるなかで、「滲み出し」という部分が弱くなっています。例えば、オフィスにいて、“隣から話し声が聞こえたから参加した”というようなことがありますが、街のイベントなどでその会場の周りの人にも音や声が届くようになる、といった “広がり”が、デジタルだと薄れていく。それが今の悩みというか課題です。

この意見に対し、篠田氏が答えました。

篠田氏:それを逆に、ビジネスチャンスにしていくといいのでは? デジタルの強みである物理的空間を越えられるという良さがあるので、そこをうまく組み合わせられるサービスがあると素敵です。それをやりましょう。

そして、次のような意見も寄せられました。

参加者B:我々の会話や、他の会議の会話をテキストマイニングで拾い、そこから課題を全部改善していき、次の開発に活かしているとします。

多分、現在、「zoom」の利用者が一番多いはずなので、「zoom」が次のリアル感を出せるような技術をどんどん開発できるのでは、と考えています。「zoom」の独り勝ち、という状況はあり得るのではないでしょうか。

入山氏:なるほど。より「zoom」の方がバーチャル発展していくのでは? いうことですね。

参加者B:そうですね。先ほど、入山先生の仰っていたどんどんリアル感の存在価値が薄れていく可能性もあるのではないでしょうか。

入山氏:なるほど、いいご指摘ですね。逆に今のご意見に指摘とかコメントとか反応とかありますか?

参加者C:「zoom」は気軽に使いやすいツールとして使われていますが、これからは「zoom」に限らずいろいろなものが同時に進歩していく。

最近、海外に日本人があまり出ないという話もあります。つい先日話題となったAppleの大規模なディベロッパーイベント「WWDC」。無料ということもあり定員もあるため、日本人の多くが参加したいけど参加できない。そんなAppleからはSiriから翻訳ができるなど、革新的な技術が多数発表されています。さらにものすごい変化があるかもしれないですね。

このように、参加者と“交流”する場面も見られた今回のオンライン会議。この日はほかにも、事前アンケート結果の共有や共感・腹落ちを意味する「センスメイキング」の話など、さまざまなテーマで終始盛り上がりを見せていました。イベントに参加した約40名全員が「アフターコロナ時代」について理解を深めたイベントとなりました。

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